千穂の家族①

 千穂は電車を乗り継ぎ、S県A市にある自宅へと帰ってきた。


 玄関先で塩を撒いている時、ドアの前、タイルの床の上にトカゲの死骸を見つけた。

 今朝、家を出るときはなかったはずだが…。


 千穂は壁に立てかけてあったほうきで、トカゲの死骸を庭の方へいた。



 ドアを開けると、小さな靴が揃えてある。娘の美優みゆのものだ。彼女は今年の春、小学校に入学したばかりの一年生だ。


「ただいま~。美優、帰ってるの?」


 廊下を抜けて、リビングに入ると、床に教科書やノート、筆記用具が散乱している。その奥で、美優がランドセルを逆さに持って、一心不乱に上下に振っていたのだ。

 まるで、ランドセルの中の埃一つ逃さず、外に出そうとしているかのように。


「美優、どうしたの? こんなに散らかして…」


 千穂がしゃがんで教科書を拾い上げると、美優は母親に気づいて、ゆっくりと顔をこちらに向けた。

 美優の顔を見た千穂は思わず尻もちをついた。


「!?」


 先ほど別れた菜緒と同じように、酷く怯えた目をしていたからだ。


「美優…どうしたの……?」


 美優は俯き、小さな声でささやくのだった。

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