恐れと疑念②

 

 ――殺される!!



 とっさにそう感じた千穂は走り出していた。

 自分でも驚くほど体が動いたのだ。


 駐車場までたどり着くと、足を止めた。


 肩を激しく上下させながら、呼吸を整える。

 全身から汗が噴き出し、冷たい汗のしずくが背中をつたって、震えが止まらなかった。


 視線を感じて顔を上げると、車の運転席に座っている龍司が怪訝そうな顔でこちらを見ていた。



「おまえ……大丈夫か? めっちゃ顔色悪いけど…」


 千穂が後部座席に乗り込むと、ドアミラー越しに龍司が訊いた。


「かっ…賀上が……。女子トイレに、いて……!」


 息を切らしながら伝えると、龍司はため息をついて吐き捨てた。


「だーかーらぁー、賀上がこんなとこに来るわけねーだろ!」


「だっ、だって……!」

 

 千穂が食い下がると、隣に座っていた菜緒が両手で耳を塞ぎながら「やめて」と小さな声で訴えた。


「もう、やめて……!」


 千穂は菜緒の方を見たが、腕が邪魔で表情を伺い見ることはできなかった。


「出発すんぞー…」


 龍司がだるそうにエンジンをかけ、車を発進させた。


 

 

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