おっさんJC、今日も今日とてくだを巻く
灰崎凛音
見た目はJC、中身はおっさん!
つかね、俺にもね、それなりの苦労ってやつがあるんよ。あ、思わず俺って言ったけど女です女。
いや、俺とか言いたくなる苦労っぷりだわ昨今。なんかさー、いつまでこの『女子中学生』なる身分、そう身分に甘んじることになるのかと。ん、俺今二年だから実質あと一年三ヶ月ってのは、ね、分かってるんです頭では。しかしですよ、卒業という名の解放から一ヶ月も立たぬ間に今度は『女子高生』! 俗に言う『JK』にね、なっちまうんですこの俺が。何これシュール? ファニー? 阿呆か! 全く笑えん。
高校受験は私にはないに等しいのです。形だけ、のふりをした形。というのもウチは中高一貫校でな、昨今の『グローバルな教育』ブームの火付け役となった系のアレだ、アレ系の学校なんだわ。
ま、諸君らもご存知の通り今や『留学』って言葉が過去で言う『塾に行く』とか『ピアノを習う』とかと同レベルで浸透してるわけであって。ウチの学年にはいないけど、高校からは留学生が結構入るし、逆に海外の高校に進学する子らもおる。だから面子が全く変わらんわけではない。
んーでもね、ボクもだね、この立ち位置の人間としてはね、ちょおおおっと疑問を抱くこともあるんよ、マジで。『真剣』、と書いて『マジ』で。
何にって、『グローバルな教育』なる、むにゃっとした概念に。
もちろん、自らの生まれ育った国であったりその文化であったり言語であったり、そういうバックグラウンドとはまったく異なる場所で様々な経験を積むってーのは悪いもんじゃないよ? だがねぇ、如何せん小学生とか精神年齢が小学生とかいう連中には早すぎるっつーか、ねえ? 特に言語は苦労しますよ、経験者談ですよ、嘘だけど。
俺はある程度日本語を会得してから渡米したケースだから、帰国してからもさほど苦労はなかったが、運が良かったんだと思うぜ、我ながら。
でも、キコクシジョ、の扱いがな。『え、バイリンガルなの〜? すご〜い! じゃあ何々って英語でなんて言うの〜?』とか『アメリカにいたのに英語のテスト満点じゃないんだ〜』とか以下略、もう馬鹿かと。
俺はニューヨークで小学生やってたんだよ、中学上がる前に帰国してんの。アメ人の小学生は『連立方程式』の名前も存在も知らん。つか連立方程式って何?
オーケー、俺も馬鹿だ。
帰国してフツーの
ところで少し前に誕生し未だこの俺を苛立たせ続けている日本語がある。
まずは「女子力」なるもの。皆無。そもそも脳内だけとはいえこんなおっさんみたいな口調で俺俺言ってる時点で女子としてっつか人としてどうなん、という問いが聞こえるがな、悪いが俺はずっとこんな感じだよマイライフ。
何しろここは県内でも有数の進学校だからして、齢十四にもなって化粧をしている女子がほぼおらん。比較対象がおらん。つまらん。と俺は思う。もっとディヴァーシティ(日本語では『ダイバーシティ』って言うんだっけ?)押し出して行こうぜ〜とは思えど、「じゃあおまえがメイクしろよ」と言われたら裸足で逃げ出すね。地味な生徒の中でも下の上くらいだよ、ボクの見た目は。なんだよ一番つまんねえの俺かよ、知ってるよ。
次、「コミュ力」なるもの。これも微妙なとこなんよね。最低限のコミュニケーションは、基本的に誰とでも可能。むしろ強い方かもしれん。物怖じもせんし人見知りもせんし、根っからアメリカナイズドされとるしな。
じゃあ友達は多いのか? と問われると、ん〜それはどうかな、どうだろうな、そもそもキミは何を以てして『友達』を定義づけるのかな、『知人』と『友達』と『親友』に明確な境界線なんてあるのかな、どうだろうな、おじさんはそういうのはグラデーションだと個人的には思うけどな、とかなんとか煙に巻いてちょっとずつ後ずさる。最低か。最低だ。だってこんな俺をね、「一番仲いい」とか「親友だよ」とか言い放つ女子がいるのだ、複数形で。
嗚呼、あなたたちはガチでレ・ミゼラブル。略して「レミゼ」。私の脳内がよもやこんな、混み合った電車内で夕刊フジをでっかく広げて加齢臭を撒き散らかしながら『やっべーチンポジ直してぇ』とか思ってるおっさんのそれとほぼ同類項と知ったら(いや、想像っていうか悪意はないし、むしろそういうおっさんは好きだ)、彼女たちは一体どうなってしまうのか? 知らねーけど。
そうこうしている内に授業が終わる。面倒な時間の到来だ。あたくしもね、決して争いごとを好むような人間ではないのです、ただただ疑問に思うのです、何故一緒に便所に行かにゃならんのかと、何故机くっつけて共にメシ食わにゃならんのかと。つまり俺にとっての休み時間とはこれ即ち授業中、うん。
あっははーい、早速お友達の何々さんと誰々さんが弁当箱持って俺の机に接近中だー! いや便所、便所とか行きてえ。食堂でも良き、購買可、校舎裏応相談、保健室、は、行きすぎるとガチで心配されるからそれはそれで面倒。
でもな、俺も分かってんの!
『そんなに嫌ならひとりで行動すりゃいいじゃん』
つー意見。いや、や、過去に実践しましたよそりゃ、ね?
するとだよ、
「あの子、いつもひとりでかわいそう」といった同情、
「あいつ、ひとりで気取ってるよね」という勘違い、
極めつけは、
「あの人、裏で色々ヤバいことしてるらしいよ」
というあらぬ噂、噂につぐ噂、陰口! この日本人特有の湿度の高さ陰湿さ! もうちょいドライに行って欲しいと思うのは俺だけか?
嫌ならハッキリそう言えや、ひそひそとしか言えねーならハナから言うな、なんじゃいおまえら揃いも揃って偏差値上げるヒマあるなら品性を磨け!
……なんてね、品性が割と粉々に砕け散っているボクが言うのもアレですがね、それでも言いたくなるんだから人間というのはまったくトリッキーな
何の話だっけ?
ああ、そう、友達、フレンズ、マブダチ、もちろん俺にもね、そういった類の存在はおるよ、でないとこう、生きていくのが困難の極みだからね、人生なるモノは。
しかし、これがリアルライフにはまるでおらん。これはね、
だっていねーもん、この学校や、俺の生活範囲内には。
——本気でそう思ってた。
あの男と出会うまで。
だってそうだろ、ここまで聞きゃ私のパーソナリティはある程度ご理解いただけたと思うし、俺自身、「少女マンガの王道が如く、美少年が転校してきて隣の席に座っちゃう〜」的な超展開が待ち受けているなんて、あの
俺こと
ただひとつ言えるのは、アメリカはイリノイ州シカゴ出身のゲス(ただしルックスは俺の好みドツボ)こと、アイザック・バートンが居れば、そこがお互いの居場所になる。要するにこの続きは、俺とアイザックとの出会い、そしてその発見の話なんよ、奧さん。
おっさんJC、今日も今日とてくだを巻く 灰崎凛音 @Rin_Sangrail
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