あこがれのきみ。【KAC2025-2】
🐉東雲 晴加🏔️
🎉KAC参加作品🎉 あこがれのきみ。㊤
「え?」
一瞬内容が理解できなくて聞き返した
「えっと、だから成宮くんもゼミの飲み会にこない?」
大学の同じ学科に高校時の同級生はおらず、進学してからも相変わらず毎日勉学一辺倒だった咲太郎はすでに二年次だというのに特別新しい友人は出来なかった。
……元々社交的でないのは自覚しているし、それでも高校時に仲良くなった友人とは今でも続いている。帰宅してからも専門書とにらめっこしていることも多いので、結局のところ勉強のルーティンも高校時とさして変わらず、おかげで同級生たちが大学に入学してやれお洒落だ、飲み会だ等と大学デビューを果たしていても咲太郎の日常は今までと何ら変わらなかった。
だからまさか、今更自分にお声がかかるとは思ってもみなかったのだ。
「え……と」
断ろう、と思って口を開きかける。けれどその瞬間、ここにはいない恋人の言葉を思い出した。
『
別に無理に新しい友達作れとかはいわないけど、大学は自分と同じ専門知識を学びに来てる人の集まりだろ? 気が合う子もいると思うし……今まではちょっと上手く行かないこともあったかもしれないけど、これからも同じとは限らないだろ? オレ、咲の良さ……きっと皆に伝わると思うんだけどなぁ……。
仕事が忙しくてなかなか会えない年上の恋人は、そう言って「オレもなかなか会えないし、友達関係も大事にしてね」と優しく笑った。
(……あーゆーところが、大人って感じ)
余裕そうに見えるところがちょっと腹立たしく思いつつ、せっかく同級生が誘ってくれたのだからここは勇気を出して新しい世界に飛び込んでみることも必要か、と咲太郎は声をかけてくれた同じゼミの女子学生に「わかった、行く」と返事をした。
咲太郎の参加しているゼミは総勢15名だが、飲み会に参加したのはその内の10名程だった。男女比が少々男子率の高い法学部では珍しく今日の飲み会の男女比は5対5だ。居酒屋なんて普段入らない咲太郎は内心ドギマギしながら入り口の近くに座る。幹事だったのか、咲太郎を飲み会に誘ってくれた女子学生がさっと咲太郎の隣に座ってメニュー表を渡してくれた。
「はい。成宮くん何飲む?」
アルコールの名前が沢山書かれたメニュー表を見て、咲太郎は早々にソフトドリンクの書かれた裏側にひっくり返した。
「……烏龍茶かな」
「え! 飲まないの?」
大学の飲み会なんて、高校までとは違って親の制約もなくなり調子に乗る者も少なくない中、健全にお茶を頼む咲太郎に目を丸くする。
「俺、誕生日3月末で。まだ19歳なんだ」
咲太郎は苦笑した。
「そっかあ……ちゃんとしてて偉いね」
「法学学んでんのにルール破るのは不味いかな、と」
「確かに」
頭が硬い、と言われればそれまでだが、同じ学部の彼女は気を悪くした様子はなく朗らかに笑った。
「ゼミのディスカッション以外でちゃんと喋るのははじめてだね? 成宮くん講義終わるとすぐ帰っちゃうけど、普段は何してるの?」
淡い栗毛の柔らかそうな髪の毛でにこにこと人懐こく笑う顔が誰かを彷彿とさせて、咲太郎は緊張していた肩の力がストンと抜けた。
「んー、終わった足で図書館行ったり……妹が受験生だから勉強見たりしてるかな」
家庭教師の代わりだと言って小遣いも貰えてるからバイト代わりにと言うと、彼女は「ご両親も成宮くんもWin-Winだねえ」と笑う。
そのうち頼んだ飲み物が運ばれてきて、乾杯の音頭と共に飲み会は始まった。法学部のゼミの学生なので、特別羽目を外し過ぎる事もなく、和やかに進んでいく会話に咲太郎は新鮮な気持ちを味わっていた。なんだかフワフワとした気持ちになる。
とはいえ、真面目な学生の集まりであったとしても、ハタチそこそこの男女が集まれば最終的に行き着く会話といえば大体同じ所だ。相変わらず咲太郎の隣で粘っていた女子学生は、ほんのりアルコールで蒸気した顔で咲太郎にたずねた。
「な、成宮くんって……好きな人とかいるの?」
何故人のそんな事が気になるのだろう……? と思いつつも、口を開けば「恋バナしよ♡」と言ってくる妹がいるので、女性の興味ナンバーワンはそこなんだな、と納得する。
いない、と言っても良かったが、変に隠して何か後で言われてもな、と咲太郎は正直に「うん、まあ」と答えた。
女子学生は咲太郎の答えが意外だったのか、大きな目を更にまんまるにしてしばし言葉を失った。
「え。そんなに驚く? ……佐伯さん?」
おーい、と手を目の前でひらひらと振る咲太郎に女子学生……
「あ、ああ、いや、ごめん。なんか意外だったから……。もしかして、つ、付き合ってる……とか?」
飲み会始まりの勢いが嘘のように小さな声で尋ねる。
「うん」
咲太郎はきょとんと首を傾げた。史織の隣りにいた男子学生があーあという顔でこちらを見ている。
急に意気消沈してしまった史織に、何か不用意なことを言ってしまったのかと咲太郎は焦ったが、史織は突然顔を上げるとぐいっと持っていたジョッキを煽った。そのまま一気に最後まで飲み干して、グラスの中身が空になる。唖然としている咲太郎をよそに、史織はへらっと笑って質問を続けた。
「そうなんだね! ど、どんな人!?」
勢いに押されて「え、えっと……」と思わず答えてしまう。
「と、年上なんだけど……自分の夢に向かって凄く努力してて……尊敬できる人……かな」
咲太郎ははにかんで答えた。彼女の勢いに負けて言ってみたが、口に出してみると凄く恥ずかしい。体温が一気に上がって顔に熱がかあっと集まった。「成宮顔真っ赤〜」男子学生にカラカラと笑われて余計に体温が上がる。なんだか頭がクラクラしてきた。
「成宮くん大丈夫?……ってコレ、ウーロンハイじゃない!?」
お水お水! と史織がお冷を持ってきてくれたので、ちょっと噛みながらもなんとかお礼を言って有り難くいただくと冷たい水が気持ちよく喉を通っていった。
回らない頭で何気なくポケットに手を突っ込むと、タイミング良くスマホが震える。
「……?」
『今どこにいるの?』
スマホの画面を見ると黒猫のアイコンと共に短いメッセージ。咲太郎はおぼつかない指先で『ぜみののみ会』、と返信を送った。
30秒もしない内に返信が返ってくる。
『――お酒飲んでるの?』
『のんでない。ちょっとフワフワしてるだけ』
『お店どこ?』
面倒くさいな。お店? ここどこだっけ?
史織が事前に送ってくれたお店の情報をコピーして貼り付ける。その後は考えるのがなんだか面倒になって、咲太郎はスマホをポケットに戻した。
❖あこがれのきみ。㊦につづく❖
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