ひなまつり

浅葱 ひな

ひなまつり

「ひなまつりってさぁ、わたしのためにあるみたいなお節句だよねぇ〜」


 そんなことを言いながら、俺が大学からの帰りに、たまたま見つけて買ってきた雛あられを、幸せそうにぽりぽりと食べる仕草が、たまらなくかわいいのは、つきあい始めてもうすぐ三年になろうとしている、俺の彼女のひな。

 これまで、破局の危機になんて陥ったことは一度もなく、それどころか、大学卒業までという期限付きではあるけれど、一緒に暮らしてたりもする。友人たちからは、いつも羨ましいって言われてる。


「もぉ、つかさくんは、こういう気づかいができるから……、好き」


 気づかい……って? 雛あられを買ってきたことがか? お祝いしてもらえるって嬉しいよね、ということらしいけど、こんなのがお祝いになるのか?

 寧ろ、今日の夕飯にって、ひなが用意してくれた、ちらし寿司とか蛤のお吸い物とかのほうがお祝い感満載だよな? というか、こういうのを普通に作れるひながすごいって。これと比べたら、俺の気づかいなんて……。



 ひなが言うには、彼女の家に雛人形はなく、今まで、『桃の節句』を特別に祝うこともなかったのだとか。

 小さい頃は周囲のそれを羨ましく思ったこともあったらしいけど、準備も片付けもお義父とうさんに面倒を押しつけてしまうのが許せなくて、どうやら遠慮していたんだそうだ。

 うん、こういうところも、ひならしいっちゃひならしいけど。


 でも、そういうのを嬉々としてやりたがってる大人たちもいるんだよなぁ。うちの両親……とか?

 母さんたちの間では、すでにひなは娘枠むすめわくになってるし。うちにも娘ができた! 桃の節句、お祝いしなきゃ! とかって騒いでたっけ。



「ひなまつりって言えばさぁ、今年のお正月に母さんたちが今更、雛人形を買おうかって騒いでたんだよ」

「どうして?」

「息子の俺より、ひなのことを自分たちの娘みたいに思ってるんじゃない?」


 唐突すぎる話の展開に、首を傾げるひな。そんな姿もかわいいんだけど……。


「お気持ちはすごく嬉しいですって、お礼を言っておいてね。でも、ダメだからね」

「どうして?」

「わたしのプレッシャーが半端ないからだよ」


 そう言って、頬を膨らませてるひなもかわいい。

 そう思ってたんだ……けど。




「そうだ! だったら、わたしにじゃなくてぇ、わたしたちに子どもができた時にプレゼントしてもらおう」


 えっ? 子ども? わたしたち? それって……、俺と、結婚してくれるってこと? プロポーズ? えっ? えっ? えぇぇぇっ?


「もぉ、司くんは、そういうトコ気づいてくれないから……嫌い」


 ひなは、こういう爆弾を、時々放り込んでくる。無自覚なのか? 無自覚なんだろうなぁ?

 本人は、『わたしは魔性の女なのだ!』とか言ってるけど……。


 なんかもう、嫌いって言われるのも嬉しいとか? 俺、どうしたらいいの?

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ひなまつり 浅葱 ひな @asagihina

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