お帰りなさい。私の太陽

まほら

お帰りなさい。私の太陽。

 まだ昼過ぎた頃なのに、薄暗い雲に覆われていた。

この雲は一向に晴れない。


こんな時こそ、ファンは彼女の笑顔を見たかった。

彼女はみんなに愛され尊敬されていた。

彼女が急に外に出なくなってしまったのは、一人のファンの行き過ぎたいたずらだった。彼はちょっとしたいたずら気分だったかもしれないが、そのいたずらは彼女を落ち込ませ、怒らせ、一歩も外へ出なくなってしまった。

たくさんのファンが心を痛ませた。

このままではすべてがおかしくなってしまう。

もう一度彼女に歌ってもらいたい、踊ってもらいたい、舞がみたい、我らのアイドルの笑顔が見たかった。

たくさんのファンがそう願い、そして計画を立て実行した。


 曇りの薄暗い空は気温を下げ、時折吹く風は冷たかった。

みんなはステージを作り、キャンプファイヤーの様に焚火を炊き、その周りに集まった。

「はじめよう!」進行がいう。皆がうなづく。

歌が始まる。彼女の好きな歌だ。皆が声を合わせ合唱する。

一人が前に進みでる。

赤い着物に白絹の羽衣を肩から両腕にからませたショートカットの娘だ。

歌は、静かに始まりクレッシェンド。歌声が大きくなる。リズムも早くなる。娘は歌に合わせ舞う。次第に早く大きな動きで、世界を呼び込むようにステージを所狭しとエネルギッシュに動き回り、そのパフォーマンスは、仲間のファン達に強い印象を与え魅了していく。身体が自然に動き出す。

彼女にも聞こえている。自分の好きな歌と舞いだ。

自然に自分もリズムをとっている。誰が舞っているのだろう。

そっと覗く。アメノだ。彼女の舞はいつも魅了される。心からダンスが好きな娘だ。

その時、すっと彼女の覗いている扉に、太い指が入る。

「え!」と思う間もなく、扉は強引に開けられてしまう。

岩の扉を開けたのは、馬鹿力のファンの男

皆から拍手が起こる。

踊る娘は舞いながら近づき、舞いながら彼女に手を差し伸べる。

彼女が舞う娘の手を取ると一歩外へ足を踏み出す。

感激に涙しながらも舞続けるアメノウズメ。


歌がやむ。アメノウズメもそこにいる八百万やおよろずの神々も彼女に向かい片膝をつく。

一人の男が高らかに宣言する。

天岩戸あまのいわとがひらかれました。太陽神 アマテラスオオミカミ様 お帰りなさいました。」

瞬く間に雲が晴れ、天頂の陽光は地にあふれる。

灰色だった世界の景色に緑や赤や黄や青、様々な色彩。そしてきらめきがもどる。世界に光が満ちた。


そこにいるみんなが欲しかった「笑顔」と「声」で

彼女は微笑みながら述べる。

「もう一度、歌と舞を見せてください。」



 


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