運命の人が見つかったんだ。

 大学生になった幼馴染がそんなことを口にしたのを、俺はどこか驚きを持って受け止めていた。そんなやつは現れないという妙な確信があったから、信じられなかったというのが大きいだろう。

 彼ってば筋肉質でカッコよくて、あたしの気持ちもしっかり受け止めてくれるの。

 どこかうっとりとした様子の紗英姉は、スマホの液晶に彼氏とのツーショットを映した。白いシャツ越しにわかるほど発達した筋肉を持ったその男は、それでいて暑苦しくなく、どころか爽やかさすら感じさせた。

 結婚したいってあたしの言葉にも、しよう、ってしっかりと答えてくれる。何か月付き合っても、今までの彼氏みたいに退いたりしないし、どんどん優しくなってくれる。絶対、運命の人だよ。

 そんな風にはっきりと語る紗英姉に、俺は……どう答えたか、よく覚えていない。たぶん、おめでとう、だとか、良かったね、なんて月並みな言葉をかけて、紗英姉は紗英姉で、満面の笑みを浮かべながら、ありがとう、と応じたはずだ。つまるところ、自分のことで手いっぱいだった。


 端的にいえば、奢っていた。紗英姉の良さを真に理解しているのは俺だけしかいないと。翻って、俺以外に真の選択肢なんてないんだから、紗英姉が気付くまで待っていればいいのだと。……否、これも言い訳だろう。真実は告白する勇気がなかったのだ。男として眼中にない、という負い目は、どうせ告白しても相手にしてもらえないという決めつけに繋がった。だから、色々と言い訳して自分から行動しないことを是とした。その結果が、幼馴染を運命の人とやらの出会いだ。


 その瞬間から全てが色褪せた。なんとはなしに生きていた俺は、過去の約束がどれだけの意味を持っていたのかをようやく実感したが、なにもかもが遅すぎた。

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