「忍者見習い、日々是修行也」

僕の名前は佐藤忍(さとうしのぶ)。名前からして忍者っぽいだろ? 実はこれ、偶然じゃない。僕の家系は、現代日本にひっそり生き残る忍者の末裔なんだ。戦国時代の暗殺とかはもうやってないけど、親父いわく「伝統は守るもの」。だから僕は物心ついた5歳の頃から忍者の修行をさせられてる。いや、させられてるって言うか、もう日常の一部なんだけどさ。今は10歳。まだまだ見習い忍者だ。




【忍びの基本は「隠れる」らしい】


最初に覚えたのは「隠れ身の術」。5歳の時、親父が庭で教えてくれた。


「忍びとは影だ。誰にも見つからず、気配を消す。それが基本だ。ほれ、やってみろ」


親父はそう言うと、庭の木の陰にスッと消えた。え、どこ行った? 目を凝らすと、木の幹にピッタリ張り付いてる。風で揺れる葉っぱと完全にシンクロしてて、まるでそこにいないみたい。カッコいい……!


で、僕も真似して植木鉢の横にしゃがんでみた。頭に葉っぱを乗せてカモフラージュ感を出そうとしたら、


「忍、お前それ何だ?」って親父が木の上から声かけてくる。いつの間に登ったんだよ!

「え、隠れてるつもりなんだけど……」

「お前、ただの変なガキが蹲ってるだけだぞ。しかも葉っぱ落ちてるし」


見上げると、枯れた植木鉢の葉っぱがパラパラ落ちてきてた。隠れるどころか目立ってるじゃん。親父は木の枝で笑い堪えてたけど、5歳の僕には泣きたい気分だったよ。




【手裏剣は飛ばない】


7歳の時、「手裏剣術」の修行が始まった。親父のお手本がまたスゴかった。庭の木に赤いテープを貼って、10メートル離れた場所から手裏剣を投げる。「シュッ!」って音がして、手裏剣がピタッと的に刺さる。しかも3連発全部命中。忍者ってやっぱすげえ!って感動した。


「さあ、お前もやってみろ」って渡されたのは、親父の手作りっぽい手裏剣。小さい手に持つとちょっと重い。気合を入れて投げた瞬間――手裏剣が手から滑り落ちて足元にポトリ。え、何これ。


「忍、お前それ投げたって言うのか?」親父が呆れた顔。

「いや、手汗がね……」

「忍者に手汗は禁物だ。修行が足りん」


いや、7歳の手汗ってどうすりゃいいんだよ! その後も何回か投げたけど、飛距離2メートルが限界。隣の家の猫がビックリして逃げ出した時は、親父に「敵を驚かせた点だけは評価する」と言われた。微妙な褒め言葉だな!




【忍び足で転ぶ】


10歳になった今朝は「忍び足」の修行。親父のお手本がまた完璧だった。居間でテレビ見てるフリしながら、僕が台所で煎餅の袋を開けた瞬間、音も立てずに背後に立ってる。


「忍、気配が丸見えだぞ」って煎餅奪われてた。忍者って怖いよ……。


で、僕にも課題が出た。親父が居間で新聞読んでる間に、台所から煎餅を盗む。忍び足でそろりそろり近づいて、袋に手を伸ばした瞬間――「ガシャーン!」足元の犬の餌皿を蹴っちゃってた。


「忍、何だその騒ぎは!」親父が新聞越しにこっち見てる。

「えっと、忍び足の練習中なんだけど……」

「お前、それで煎餅盗もうとしただろ。忍者以前に泥棒だな」


言い返せなかった。だってその通りなんだもん。結局、煎餅没収されて、正座で「忍者の心得」を30分聞かされた。親父の忍び足は完璧なのに、僕のはドタバタすぎるよ……。


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