「足がないなら作ればいい!」
それは、ある秋の夕暮れ時のことだった。山田太郎、28歳、職業はフリーのイラストレーター。趣味は自転車と駄菓子屋巡りという、どこか子供っぽさが抜けない男だ。彼はいつものように愛車のママチャリで坂道を下っていた。風が気持ちよく頬を撫で、鼻歌まじりにペダルを漕いでいたその瞬間――猛スピードのトラックが突然横から飛び出してきた。
自転車のブレーキを握る暇もなかった。とてつもない衝撃と共に太郎は宙を舞い、アスファルトに叩きつけられた。意識が遠のく中、彼が最後に見たのは、自分の左足が妙な角度で曲がっている光景だった。
目が覚めた時、太郎は病院のベッドにいた。医者の説明は淡々としていた。「左足は膝下から切断しました。命が助かったのは奇跡です」。隣で母親が泣き崩れていたが、太郎の頭の中は意外と冷静だった。
「足が…ないのか。ふーん、そうかぁ」
その日から、彼の人生は大きく変わった。だが、太郎は落ち込むどころか、妙にテンションが上がっていた。退院の日、車椅子に座りながら母親にこう宣言したのだ。
「足がないなら、作ればいいじゃん!俺、自分で義足作るよ!」
母親は呆れ顔で「何!?太郎、あんた頭でも打ったの!?」と叫んだが、太郎の目はすでにキラキラしていた。
太郎が義足に興味を持ったのは、子供の頃に見たアニメがきっかけだ。ロボットヒーローが壊れた腕を自分で修理するシーンに感動し、「俺もいつか自分で何か作ってみたい!」と夢見ていた。それがまさか、自分の足を失う形で実現するとは思ってもみなかったが。
退院後、太郎はさっそくネットで義足の情報を集め始めた。医療用の義足は高額で、保険が適用されても数十万円はかかる。しかも、デザインはどれも無機質で面白味がない。「こんな地味なの、俺のキャラに合わねぇ!」と一蹴し、彼はDIYに活路を見出した。
ホームセンターに通い詰め、パイプ、ネジ、ゴム板、さらには自転車の古いサドルまで買い集めた。作業場は実家の物置小屋。そこに籐椅子を持ち込み、BGMに懐メロを流しながら、太郎の「義足プロジェクト」が始まった。
最初に作ったのは、パイプと板を組み合わせただけのシンプルなものだった。試しに装着してみると、見た目はまるで「脚立の脚」。歩こうとした瞬間、ガシャンと倒れてしまい、物置の棚に頭をぶつけた。
「痛ってぇ…でも、まぁ初号機ってこんなもんか」
太郎はめげなかった。むしろ、失敗するたびに笑いがこみ上げてきた。試作品2号は、バネを仕込んで跳ねるようにしてみたが、今度は跳びすぎて庭の植木鉢を破壊。3号は軽量化を狙ってプラスチックを使ったが、強度不足で一歩目でバキッと折れた。
近所のおばちゃんが「太郎ちゃん、最近よく変な音してるけど大丈夫!?」と心配そうに覗きに来た時には、「いやぁ、ちょっと発明中なんで!」と笑顔で誤魔化した。
試行錯誤を重ねること約3ヶ月。太郎の手元には、ついに「これだ!」と思える義足が完成した。その名も「タロウ・スペシャルMk-7」。見た目は奇抜そのものだった。
まず、脚部は自転車のフレームを再利用したシルバーのパイプで構成され、ところどころにカラフルなテープが巻かれている。膝関節にはホームセンターで買ったスプリングを仕込み、歩くたびに「ボヨン」と軽快な音がする。そして最大の特徴は、足首に取り付けられた小さな車輪だ。平坦な道ではローラースケートのように滑ることができ、坂道ではブレーキ代わりにゴムパッドが作動する仕組みだ。
デザインのインスピレーションは、子供の頃に自分で描いた「未来のロボット戦士」。義足というより、まるでSF映画の小道具のようだった。
初めて外で義足を試した次の日、太郎は近所の駄菓子屋に向かった。車輪のおかげで平地はスイスイ進み、スプリングのおかげでちょっとした段差も楽に越えられた。店に着くと、店のおばちゃんが目を丸くして言った。
「太郎ちゃん、それ何!?足がロボットみたいになってるよ!」
「自分で作ったんだよ。かっこいいだろ?」と得意げに答えると、おばちゃんは笑いながら「あんたらしいねぇ」と飴を一つおまけしてくれた。
「タロウ・スペシャルMk-7」は、太郎の生活に彩りを加えた。車輪のおかげで近所への移動が楽になり、スプリングのおかげで疲れにくい。イラストの仕事も再開し、義足をモチーフにしたユーモラスなキャラクターを描いてSNSにアップすると、海外のフォロワー等から「最高にクールだね!」と大好評だった。
ある日、太郎は趣味だった「駄菓子屋巡り」を復活させた。地図を片手に、近隣の店を回るのだ。義足の車輪を活かして坂道を滑り降り、スプリングで跳ねるように歩く姿は、まるで子供が遊んでいるようだった。
道すがら、公園で遊ぶ子供たちに囲まれた。「すげぇ!ロボットの足だ!」と興奮する子たちに、太郎は「自分で作ったんだぜ」と自慢し、車輪で少し滑ってみせた。一人の子が「僕も作りたい!」と言い出したので、太郎は笑ってこう答えた。
「じゃあ、いつか一緒に作ろうな。でも、足は大事にしろよ!」
その言葉に子供たちはケラケラ笑い、太郎もつられて笑った。
別の日には、母親に頼まれてスーパーへ買い物に行った。重い荷物を抱えて帰るのは大変だったが、太郎は義足の車輪に小さなカゴを取り付け、荷物を乗せて滑りながら帰宅。母親は「便利っちゃ便利だけど…恥ずかしいからやめてくれない?」と苦笑いしたが、太郎は「これが俺のスタイルだ!」と意に介さなかった。
今、太郎は物置小屋で次のプロジェクトに取り掛かっている。それは、子供たち向けにカスタマイズ可能な「ミニ・タロウ・スペシャル」の設計だ。いつか、足を失った子が自分の義足を見て「自分も作れるかな?」と思えるようなものを作りたい――そんな夢が彼を突き動かしている。
「足がないなら作ればいい。そんで、笑顔も作れたら最高だろ?」
夕陽が差し込む小屋の中で、太郎の鼻歌が今日も響いている。
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