他人の怒りでレベルアップ! ~至高の王座を目指して最強へ~
ゼリー甘い
第1話 花火に潜む青い炎
大阪・天神橋筋商店街の夕暮れ。朱に染まったアーケードの下、清水司は妹の葉を背負いながら露店の列を眺めていた。彼の首筋に冷たい汗が伝う。持病の貧血が、新年の雑踏でじわりと牙を剥き始めていた。
「あのね、お兄ちゃん」背中の清水葉が顎で司の肩をコツンと突く。「たこ焼き400円って書いてあるよ」
「...昨日も食ったやろ」
「でも今日のは青いマヨネーズかけてる!絶対宇宙人仕様だよ!」
司はため息を吐きながら財布を開く。先月の防寒着代で学費が消えた記憶が、薄い革の折り目に染み付いている。
後、葉が両手で抱えた発泡スチロール箱からは、醤油の香りと共に湯気がもくもくと立ち上る。
「6個食べていい?お兄ちゃん1個でしょ、いつもみたいに」
「胃が弱いだけや。ほら、焦げてるの取れへんから...」
会話を遮るように夜空が裂けた。最初の花火が炸裂する音と同時に、商店街の照明が一斉に消えた。人々のどよめきの中、司の視界に奇妙な残像が焼き付く──赤い提灯の群れを縫うように、青白い光の粒が浮遊している。
「あ!おじさんたちも見てる!」葉が露店のおやじたちの会話を指差す。中年男性がスマホを振りながら唾を飛ばしていた。「この前もニュース速報で幽霊写真流れたやろ?あれ10秒で消えてん」
司の掌が自然と胸元に押し当てられる。花火の轟音に混じって、鼓動が不自然に高鳴っている。先月から続く微熱が、今だけは心臓の奥で燻ぶるような感覚に変わっていた。
異変は大道芸人のステージで明らかになった。
纏火芸の男が両手を広げた瞬間、観客席から悲鳴が上がる。男の全身を青い炎が包み、それがゆらりと空中で獅子の形を成す。司の鎖骨の下で心臓が跳ねる。
「すごい!魔法みたい!」葉が司の袖を引っ張る。「あのヒゲおじさんの弟子になりたいな」
「待て、葉!関係者以外立入禁...」
制止する間もなく妹はバックステージに駆け込んだ。暗がりで見たのは、黒い革手袋を嵌めた男たちが芸人をテーブルに押さえつける姿。注射器の針先がその大道芸人にいれされた。
「消防法違反です。消火活動させていただきます」
不自然に平坦な関西弁が司の耳を刺す。本来なら主催者に責任が及ぶはずだ。芸人たちが無抵抗なのが最もおかしい──男たちの左胸に、消防署の紋章ではない三日月型のワッペンが縫い付けられている。
司は冷や汗で濡れた掌で葉の目を覆った。鼓動の高鳴りが頭蓋骨を震わせる。先週見かけた「少年が軽トラックを担ぐ」というデマ記事、昨日消えた交差点の幽霃現象動画──全てが今この暗がりでつながっていく。
「お兄ちゃん、あの人たち...」
「何も見えへんかった。わかるか?」
商店街に照明が復旧し、人々の笑い声が再び湧き上がる。司の背中にしがみつく葉の手が小さく震えているのを、兄は優しい嘘で包み込んだ。夜空に炸裂する花火の音が、司の胸の奥で白い炎の引く咆哮と共鳴していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます