第3話 世界はマシンで動いてる 私もあなたも実はマシンだよ?

 カウンターの上に無言でチューインガムが投げ出された。客は耳をイアホンで塞ぎ、目は手に持った携帯のゲーム画面に注いでいる。それならそれでちゃちゃっと商品のバーコードを読み取り、値段を告げ、決済して商品を手渡すマシンに徹するまでだ。


 店長に言ってシフト時間を変えてもらってから三日になる。お陰であの嫌な客とは顔を合わせることもなく済んでいる。わたしは店長にあいつの言動がどれだけ辛いものだったか訴えたのだが、店長からはお詫びや労いの一言もなく、ただシフト時間の変更の提案があっただけだ。まるで規格が合わないマシンの部品を取り替えるみたいなものだった。


 まあ、わたしもさっきみたいなお客に機械的に対応している方があの嫌な客に対応するより百万倍もマシなので納得はしている。わたしの代わりにその時間にシフトに入った同僚に聞くと、あいつはやっぱり同じ時刻にやってきてしばらく店内でうろうろして時間を潰していたらしいが、しばらくして諦めたらしく立ち去ったと言うことだった。あんなやつ、結局自分のお気に入りのサンドバッグじゃないとパンチできない弱虫と言うことか。


 帰宅すると、簡単な夕食もそこそこにわたしはMIFUYUのアプリを立ち上げた。最近ではイラストの投稿サイトの次くらいにはMIFUYUを開くことが多くなっている。SNSで知り合いのキラキラした投稿を見ても自分は彼女らの虚栄心の養分にしかなれないし、こちらから投稿するような出来事だって大してないからだ。MIFUYUはわたしのイラストのアドバイスもしてくれるし、時にはそれがすごく参考になっている。でもわたしにだってプライドがあるので代筆してもらうことだけはやらない。


「こんにちは『あい』。ずいぶん寒くなりましたね。」


「うん。今日は仕事の行き帰りですっかり手がかじかんじゃった。こんな時に温泉にでも行けると良いんだけど。」


「ちょっと調べて見ましょうか?たぶん近くにお手頃な宿があると思いますよ……」


 わたしたちは、しばらくの間楽しく旅行のプランを話し合うことができた。MIFUYUに頼めば予約までしてくれるらしいが、それは後日のお楽しみにしておこう。

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