神5話 真也の絶望
過去がフラッシュバックした真也。
遂に己の過去を語り始める。
中学二年生の夏休み明け頃、今思い返すと少し変だなと思う事があった。
「夕夏!お前、最近なんでそんなにボロボロなんだよ。なんかあったのか?なんかあったなら俺に話して…」
「大丈夫!!心配しないで。ちょっとドジっちゃってさ!だから、あんまり気にしないで欲しいな」
そう言って、いつも通りの笑顔を浮かべる夕夏。
そのいつも通りの笑顔に『余計な心配だったか…』とこの時は気にするのを辞めた。
そういう変化はあったが、夕夏の過ごし方は変わらなかった。
今になって思うと、余計な心配をかけないように普段通り振舞っていたのだろう。
これは後に知ったのだが、どうやら二年の九月頃からの夕夏は学校でいじめられていたらしい。
何が原因だったのかと言うと、夕夏は夏休み明けにとある男子に告られ、それを振った。
その男子のことが好きだったいじめの首謀者たちに目を付けられて、陰湿ないじめをされていたという事を俺は関係者から聞いて初めて知った。
そんな事を当時は知らず、いつも通り絡んでいた。
夕夏が苦しんでいることも知らずに…
とある日の帰り道
顔色が悪く、テンションがいつもより低い夕夏を見て心配になった俺は、夕夏に話を切り出した。
「なぁ、大丈夫か?夕夏、最近たまに変だけど体調が悪いのか?それとも学校で何かあったのか?」
「べ、別に何もないよ。ちょっと気分がすぐれないだけだから…。」
「そうか。でも何かあったら俺を頼れよ!絶対、夕夏の力になるから。」
「う、うん。そうだね!何かあったら頼っちゃおうかな~!!」
「おう!是非頼ってくれ。」
なんてやり取りをした。
こうして深く追求する事は出来ずに時は流れ
“その日”が来てしまった。
いつも通り学校へ行き、特に変わったことも無く夕夏とは別々で家に帰って来た。
家に帰ると、俺の勉強机に置手紙が置いてあった。
差出人は誰なのか確認すると、封筒の端に藤川夕夏よりと書いてあった。
早速手紙の内容を読んでみる。
【平松真也君へ】
急な手紙でビックリした事でしよう。
なんでこんな手紙を書いたかと言うと、今日で全部に区切りをつけるから。
せめて君には伝えることは伝えておきたいと思ったからです。
最初に言います。
ごめんなさい。勝手に私一人で決めて、でももう限界なの。私は弱いからもう耐えられない…。
実はね、私今まで学校でいじめられてたの…
ずっと家族や真也君に余計な心配をかけたくなくて、今までずっと言えなかった。
このことを知った後、どうするかはお父さんとお母さんと真也君に任せます。
真也君のお父さんとお母さんとの事や小、中学生の時の友達との事、そして幼馴染で今まで一緒に居てくれた真也君との思い出は本当に良い思い出だと思ってるし、楽しかったよ。
でも今は…今の現状は、どうしてもこれ以上耐えられそうにないの…もう気を使ったり人の気持ちを考えてこれからも生きて行く気力は、私にはないです。
でもせめて、これからも生きて行く真也君にはこの事をあまり重く受け止めないで欲しいし、私の分まで幸せになって欲しいとは思うの。
私の事なんか忘れて、これからの真也君の人生を謳歌して欲しいって願ってる。
まぁ、ただの私の我儘だけどね。
私は先に行ってるから、真也君は沢山長生きして、こっちに来た時にどんな人生だったか沢山聞かせてほしいな。
私にとっては、辛くても頑張って何事にも取り組むけど不器用で、こんな我儘でうるさい私と一緒に居てくれた大切な幼馴染だからさ。
これが私から最後の我儘だよ。
最後にこの辺りで一番大きいビルから景色でも眺めて逝こうかな。
土産話、楽しみにしてる。
今までありがとう。
そしてさようなら平松真也君。
藤川夕夏より
という手紙だった。
手紙を雑に置いて真也は飛び出すように家を出た。
真也は、夕夏が何処に居るのか心当たりがあった。
ここ最近夕夏が
あのビルから景色見たら綺麗だろうな…って一緒に帰ってる時に小さく呟いていた、あのビル。
「クソ!まだ、まだ何も言いたいこと言えてないのにこんな…こんな最後…絶対認めないからな…!!」
まだ間に合うと思ったから、今度こそ自分の大切な人を失いたくなかったから、懸命にそのビルまで向かった。
この日は天気が悪くなると予想されていたので、段々と雲行きが怪しくなってきたが夕夏を助ける事で頭がいっぱいで気にせず向かう真也。
「この辺りが騒いでないってことはまだ手遅れじゃねぇよな!頼む!お願いだ神様!間に合ってくれ…!」
ただひたすら走る。
そしてついにビルの近くまで来た。
「はやく…早く係員の人に理由を話して説得を!」
夕夏が両親のようにいなくならないかもと安堵する真也。
そしてふと上を見た時、何かが上から落ちて来る。
反射的に当たらないように急いで距離を取った。
そしてそれが何か認識できる距離まで落ちて来た時、良く見知った顔が見え青ざめる真也。
それが恐ろしくても、硬直してその場から動けない。
最後に認識した時に見えたその表情は、全てを諦めたような泣き顔だった。
そして時は常に流れるもので、地面に頭から叩きつけられた生々しい音が真也の耳に聞こえる。
それをただ、立ち尽くして眺める事しか出来ない真也。
落ちた衝撃で体から出た血が真也の顔や体に飛び跳ね付着する。
余りにも恐ろしいものを目の前で見せられた真也はその場で発狂した。
その後
数人いた目撃者が慌てて警察を呼んだ。
それから警察が来て色々と質問されたが、よく覚えていない。
この時の俺は、とてつもないショックと後悔で押し潰されそうになっていた。
今でも思い出すと気がおかしくなりそうだ。
俺はまた両親同様、大切なものを失った。
もう何も失いたくなかったのに…。
こうして俺が中三の時、藤川夕夏は俺の目の前で自殺した。
続
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