【KAC20251/ひなまつり】お雛様とお雛様(GL、BL)
魚野れん
女性ペアの親王飾りも悪くない
家のチャイムが鳴り配達員から荷物を受け取った明寧が、それを開封するなり紗彩を呼んだ。
「見て、さーや。親がこんなの送ってきたよ!」
「え? 何それ」
大きい箱に入っていたのは、これまた大きな箱だった。しかし、その段ボールには見覚えのあるロゴが描かれている。確か、これは有名な人形を製造している会社のものだ。紗彩はそれを見てピンときた。
そして、紗彩の予想通りの答えが返ってきた。
「私のお雛様」
やはりそうだった。二月ももう終わろうとしている時に送られてくる荷物に人形の会社のロゴがついた段ボール。そして明寧の性別――とくれば、想像できるというものだ。
しかし、それが明寧にとって好ましい結果となるとは限らない。特に、同性しか好きになれない明寧の場合は。
「……それは、何て言うか……絶妙な」
「だよね。まぁ……親なりの最後の抵抗って感じかな」
「明寧……」
明寧は親にカミングアウト済みだ。その際に、ただ淡々と「そうか」とだけ言われ、 翌日からは普段通りだったという。一応の理解は示してくれたものの、こうしてときおり、思い出したかのように「テンプレ的な女の子の幸せ」を明寧にそっと差し出してくるらしい。
今回も、諦めきれない親の気持ちが透けて見えるかのようだった。
「ま、気持ちは分からなくないし。でも、こればかりはね」
「そうだね……」
紗彩は慣れたように言う明寧に小さく頷く。明寧は寂しそうな笑みを浮かべて、ひな人形の箱をゆっくりと撫でた。
「見て見て明寧」
この前の明寧の姿を見て何とかしたいと考えた紗彩は実家からとある荷物を送ってもらっていた。明寧は嬉々として彼女を呼ぶ紗彩に興味を示した。
「うん?」
「私のお雛様!」
「……は?」
紗彩は手早く梱包を剥ぎ、箱を開ける。そこには、人形が入った箱や台の入った箱などがぎっしりと詰め込まれていた。
荷物の中身を理解した明寧が怪訝な顔をしている。
「ふふ、ちょっと両方開けてみよ? やってみたい事があるの」
紗彩の笑みに何かを感じた明寧は、小さく息を吐いてからすぐに自分のお雛様を持ってくるのだった。
「――で? やってみたい事って何よ」
「明寧のお雛様って、お雛様とお内裏様だけの雛飾りよね」
「そうだけど」
「私のお雛様と明寧のお雛様で、お雛様同士の雛飾りを作ろうよ」
「ああ……なるほど」
紗彩の雛飾りは十五人飾りだ。現実的な話、予算によって一段だけの親王飾りだったり、三段の親王官女飾りだったり、七段の十五人飾りだったりと、用意してくれる雛飾りの種類が変わってくる。親王飾りだったとしても、お値段がすごいものもあるが。
明寧の方は、予算的な問題で一段だったようだ。それはともかく、せっかく二対揃っているのならば、入れ替えて女性だけのお雛様と男性だけのお雛様――というより、お内裏様だけのお内裏様?――にしてもいても良いのではないかと思いついたのだった。
明寧と協力して、まずは七段の巨大な雛飾りを。親王――お雛様とお内裏様のセット――から始まって、三人官女、五人囃子、随身に仕丁、そしてお雛道具の数々。全てが揃った雛飾りだ。段を組み立てるのも手間がかかるが、それ以上に人形たちを慎重に配置したりするのが大変だ。
紗彩と明寧は何とか豪華な雛飾りを準備した。もちろん、一番上はお雛様同士を並べて。
「良いんじゃない?」
「うん。こういうのも悪くないね」
お雛様が二人、並んで座っている。すまし顔なのが何か面白い。紗彩と明寧は互いに顔を見合わせて、ふふ、と笑った。
「ねえ、このいらない内裏様セット……あっちの二人にあげちゃおうか」
紗彩は元カレである浩和とその恋人である祥順を思い浮かべて言った。お内裏様だけの雛飾り。ずっと幸せにいられますように、の願いを込めてプレゼントしても良いだろう。
「明寧、ひなまつりの期間限定で貸し出してあげようよ」
「さーやがそれで良いなら、私はかまわないよ。でも彼らは困惑するだろうね」
「ふふ。それが見たいんじゃない」
「さーやったら、悪い子」
窘めるような事を言いながらも、明寧は悪い顔をしている。むしろ明寧の方が悪い子みたいだ。紗彩はそんな彼女に「そういう私の事が好きなんでしょ?」と言って笑いかける。
「じゃ、今年のひなまつりは自由形って事で。いつものメンバーを招待して遊ぶか」
「良いわね。楽しそう!」
明寧は笑いながら視線を雛飾りへと向ける。その表情にあったはずの悲し気な色は、もう消えてなくなっていた。
【KAC20251/ひなまつり】お雛様とお雛様(GL、BL) 魚野れん @elfhame_Wallen
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