第21話 沈黙

 離宮に帰ってくるなり、ユーシェンは、寝台に放り投げられた。身を起こすより早く、ハオランが覆いかぶさってきた。


「でん――」

「おとなしくせよ」


 ぐっと上から押さえ込まれた。異論は許さぬという風情に、ユーシェンは黙り、唇を引き結んだ。

 ハオランはその様子に、「ふ」と微かに笑った。かぶっていた薄布を無造作に引きはぐと、後ろに放り投げた。月光の元に、白銀の髪が妖しく光る。縦の瞳孔が、赤みを帯びて輝いていた。


「たがいにみじめな夜であったな。ユーシェン」


 紅の移った唇を、親指の腹でぬぐいながら、ハオランは言った。それには、咄嗟にかっとなり口を開いたが――ハオランの顔を見て、唇をすぐに結びなおした。

 ハオランの笑みを浮かべた表情の奥に、なにか形容しがたい怒りを見たがゆえだ。言いたいことはたくさんあるが――今はそのときではない。

 ハオランは、ユーシェンの右肩をぐっと押さえつけ、「どうした?」と目を深く覗き込んだ。


「言いたいことがあるなら申してみよ」


 やわらかな声。その目には、いくばくかの愉悦が混じった。

 このような時でも愉しむとは、酔狂に過ぎるな。その様を、ユーシェンは薄く笑い、見返した。


「なにもございません」

「ほう」

「このような時にかける言葉など、私のような野暮にはちっともわかりませぬ」


 オウエンに対してもそうだった。

 十年男妻をやってきたが、いくら考えてもわからなかった。男がこのような屈辱の目にあって、いったい何の言葉が慰めになるというのか。自分のことさえ慰められぬというのに、到底わかりっこなかった。

 自分にできるのは、ただ隣にいることのみ。しかし、自分の存在がまた、相手を辱めているのだ。男妻は共同体でも、慰めでもない。化粧がわだかまる顔で、ユーシェンはただまっすぐと、ハオランを見上げた。

 ハオランは、ふいに目を細めた。右肩を押さえていた手で、ユーシェンの頬を包んだ。


「私を哀れむか?」

「僭越ながら、おいたわしいことと存じます」


 俺もそれなりに、かわいそうだがな。しばし、二人はそうして見つめあった。


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