第3話 離宮
ハオランは外には出たくない、誰にも姿を見られたくないようで、晴れがましいものは一切なく、荷物を引っ越すように、ユーシェンはハオランに輿入れした。
とはいえ、こちらにやって来るのはハオランの方である。ユーシェンがこの十年、ずっとオウエンと過ごしてきた離宮。そこにちょうどオウエンと入れ替わりでやってくるのだ。
「では、ユーシェン。達者で」
王宮に向かったオウエンの颯爽とした笑顔を思い出す。向こうでは、リンフォンがそれは天女のように美しく着飾って迎えてくれるのだろう。
そして、ハオランを迎えるのはさえない男妻の自分。さすがに哀れすぎやしないだろうか。弟の受けてきた辛酸を、まさか兄の身で受けることになるとは思わなかっただろうな……と遠い目になる。
せめて美しく離宮を整えて、総出でハオランを出迎えてさしあげよう。そう決めて、ユーシェンたちはハオランが来るまでせっせと離宮を整え今日を迎えたのだった。
太陽が天辺から少し傾きだしたころ、馬車がやってきた。ハオランの側近であるベイツィンが、出てきた。彼は宰相の息子だが、立場を捨ててハオランについてきたらしい。立派な忠義心だ。
「お待ちいたしておりました」
一同、礼を取る。ベイツィンはさめた目でこちらを見て、「ああ」とひとこと。もうそれを言うのすら難儀、そういった顔だった。ついと目をそらし、「どけ」と言った。
「殿下は、騒々しいのが気に障るゆえ、下がれ」
あまりのいいように、一同唖然とする。
「しかし、殿下をお出迎えせぬなど恐れ多く存じます」
「殿下がいらぬとおっしゃっているのだ。それこそ僭越ではないか?」
下がれ。
もう一度、そう言って、ユーシェンを見る。男妻である自分への、激しい嫌悪をにじませていた。
慣れていることではあるが、こんなに無礼を働かれたのは初めてだ。廃嫡されたとはいえ、やはり第一王子の側近ともなれば、尊大さも格が違う。
これは厄介だな。
「申し訳ございません。御前を失礼いたします」
このままぼうっとしていては、馬車でひき殺されかねない気配である。
ユーシェンは、一同をうながし、礼を取り去った。
それから。
改めてご挨拶に伺ったら、またもやベイツィンに、門前払いを喰らってしまった。ベイツィンの差配で、整えた調度品などを、入れ替えている最中であった。
「あまりに趣味が悪いゆえ。男妻には荷が重かろう、これからはなにもしなくてよい」
下がれ。
またもや横柄に言われて、引き下がるしかなかった。
「あんまりにございます」
ファンシンが、悔しそうに歯噛みした。ユーシェンは笑った。
「なに、気にすることはない。これまで王宮におられた方が、いきなり離宮暮らしだ。気が立っておられるのだろう」
しかし、こうしてみれば、オウエンがどれほど自分というものを庇っていてくれたかわかる。あの方は、やはりいい主だった。幸福を祈ろう。心中ひとつ頷く。
「しかし、お目通りさえかなわぬとは、困ったな」
ユーシェンは、腕組みをし、軽く天井を仰いだ。
まあたしかに、ハオランとユーシェンは男と男、子を成すわけもないのだし会わなくともいいといえばいいのだが。そういう意味では、向こうも男妻の自分で都合がいいのかもしれない。
「こうして縁を結びお仕えするのに、これでよいものか」
まあ、殿下がいいと言うなら従うほかないのであるし、自分もしいて寝所に侍るなどしたくないのだが、これは違うだろう。望まぬ男妻の身分とはいえ、やるべきことはなさねばならぬし、このような待遇は好かぬ。
「もう放っておけばよいのではありませんか?私どもで好きにしましょう」
やる気をなくしたファンシンが、つばでも吐きそうな顔をしている。自分を思って怒っている様に、ユーシェンは笑う。
「ファンシン、お前には苦労をかけるな」
「私はいいのです。ユーシェンさまがあまりに浮かばれなくて……」
「俺はなんとも思っていない。俺は確かに全く気が回らないゆえ。よく働いてくれたお前たちに申し訳ないだけだ」
「めっそうもございません!」
「私どもはユーシェンさまの味方です」
側仕えたちは、口々に言った。ユーシェンは相好を崩す。
なんとも可愛いものたちだ。男妻の自分を蔑まず、ずっと尽くしてくれている。
何とか皆にむくいたい。このまま冷や飯食いをさせるわけにはいかぬ。ユーシェンは、主として気合いを入れた。
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