わが家のアイドル

よつ葉あき

わが家のアイドル



『大好きだ。俺にとって、キミが誰よりも1番可愛くて、ずっとキミが1番だ。結婚して下さい』



───その言葉を信じて、差し出された指輪を受け取った。








「ユウキくーん、お迎えだよーー!」

「はーい!」


先生に声をかけられ笑顔でこちらに走ってくるユウキ。私は笑顔で腕を拡げた。



「ヒナちゃん、ヒナちゃん、ヒナちゃーーーん!」


私を素通りしベビーカーにいるヒナに抱きついた。抱きつかれたヒナも「きゃー!」と声をあげ笑っている。そんなふたりを見て、先生も笑った。


「ユウキくんは本当にヒナちゃんが大好きだね」

「うん! ヒナちゃんだいすき。ヒナちゃんが1番かわいい」


!!?

⋯⋯⋯⋯この前まで、ママがいちばんって言ってくれてたのに。


先生はそんなユウキをみて「これはヒナちゃんに彼氏が出来たら大変そうね」と苦笑いを浮かべた。


「じゃあユウキくん、また明日ね」

「うん。せんせえ、ばいばーい」


こうして保育園を後にし、3人で道路を歩きながらユウキに話しかける。


「ユウキ、今日は保育園でなにしたの?」

「きょうはねー、うふふ。もうすぐひなまつりだから、おひなさまつくったの!」

「そうなんだ。楽しかった?」

「うん! すごいじょうずにできたんだよ。ひなまつりおわったらもってかえるから、ヒナちゃんにあげるね!」


そんな会話をしながら、帰宅した。


「ただいまー」

「おう。おかえり」

「え、パパ!? なんでいるの? おしごとは?」


ユウキは驚きながらも、嬉しそうにパパに駆け寄りそのまま抱っこされる。


「今日は半休⋯⋯午前中だけお仕事してきたんだよ。午後は大切な物が届くからお仕事休んだんだ」

「たいせつなもの?」

「ふっふっふ⋯⋯じゃーーん、コレだ!」


ユウキを抱っこしたパパはリビングのドアを開けた。そこにあったのは認識しないことは不可能なひな人形⋯⋯の、七段飾り。


「うわーーー! すごーーーい!! このおひなさま、保育園のより大きいよ!」

「そうかそうか、凄いだろう」

「ちょ⋯⋯。こんな大きいのどうしたのよ」

「もちろん買ったさ。この前の残してたボーナスでな」

「残してたって、大切な時の為に取っておいたんですけど⋯⋯って! まさか、残ってたの全部使ったの!?」


50万くらいあったはずなのに嘘でしょ!? とパパを見つめると、視線をそらされ「だって大きい方がヒナが喜ぶかと思って⋯⋯」と呟く。

まだ1歳になったばかりのヒナが喜ぶも何もないでしょうが!! と胸ぐらを掴みたくなったが


「ヒナちゃんよかったね! おおきいおひなさまうれしいねぇ。おひなさま、かわいいね! でもヒナちゃんのかわいさには負けるけど」


と、またもヒナに抱きつくユウキにそう言われてしまい、くそぉ何も言えねぇ。

抱きつかれ、またケタケタと笑うヒナにパパは


「あーー! ヒナちゃんは本当に可愛いなぁぁ。 ヒナちゃんが1番だっ!!」


と、パパまでがヒナに抱きついていた。

『俺にとって、キミが誰よりも1番可愛くて、ずっとキミが1番だ』って言ってたくせにぃぃぃ!






───3月2日。

明日はやっと、ひなまつり。⋯⋯長かった。

さほど広くないわが家のリビングの半分程を、ひな人形七段飾りに占領されてしまい、部屋の中央に置いてたソファをズラすはめになったので、テレビが見にくくてしょうがない。

⋯⋯明日は、ひなまつり本番だから難しいだろうけど、明後日にはしまうぞ! リビングを広くする!

と思っているとテレビからニュースが聞こえた。


『──大谷田選手が今日もホームランと盗塁を成功させ、40-40を達成しました!』


それを見て思わず「へぇ、大谷田さんカッコイイね」と呟くと、オモチャで遊んでたユウキが


「うん。大谷田さんかっこいいよね! ヒナちゃんのダンナさんにぴったりだよ」


と言った。

えええーーー! とんでもない大物狙ってた!?

思わず私は言う。


「ヒナちゃんはユウキと結婚するんじゃないの?」

「ママ、ヒナちゃんは妹だよ。ヒナちゃんのことはだいすきだけど、兄妹じゃ結婚できないんだよ?」


そんなことも知らないの? と言わんばかりに言われてしまった。意外と現実的ーー!


「そっか、でも残念。大谷田さん、この前結婚しちゃったのよ」

「ええーー、残念。じゃ別の人探さなくちゃ。だれがいいかなぁ?」


と言いながら、またパズルで遊び始めた。そんなユウキの背中を見てると「だぁー!」という声と共に私の脚に重み感じた。


「どうしたのヒナ。あ、おっぱい欲しいの?」

「うきゃーー!」


ヒナの前にしゃがみ込んだ私に満面の笑顔で、ヒナが抱きついてきた。

かっわいいーーー! さすがはウチの子!



わが家のアイドル!!



私はスマホのカメラを連写した。


───今日もわが家は推し活に忙しい。



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