わが家のアイドル
よつ葉あき
わが家のアイドル
『大好きだ。俺にとって、キミが誰よりも1番可愛くて、ずっとキミが1番だ。結婚して下さい』
───その言葉を信じて、差し出された指輪を受け取った。
◆
「ユウキくーん、お迎えだよーー!」
「はーい!」
先生に声をかけられ笑顔でこちらに走ってくるユウキ。私は笑顔で腕を拡げた。
が
「ヒナちゃん、ヒナちゃん、ヒナちゃーーーん!」
私を素通りしベビーカーにいるヒナに抱きついた。抱きつかれたヒナも「きゃー!」と声をあげ笑っている。そんなふたりを見て、先生も笑った。
「ユウキくんは本当にヒナちゃんが大好きだね」
「うん! ヒナちゃんだいすき。ヒナちゃんが1番かわいい」
!!?
⋯⋯⋯⋯この前まで、ママがいちばんって言ってくれてたのに。
先生はそんなユウキをみて「これはヒナちゃんに彼氏が出来たら大変そうね」と苦笑いを浮かべた。
「じゃあユウキくん、また明日ね」
「うん。せんせえ、ばいばーい」
こうして保育園を後にし、3人で道路を歩きながらユウキに話しかける。
「ユウキ、今日は保育園でなにしたの?」
「きょうはねー、うふふ。もうすぐひなまつりだから、おひなさまつくったの!」
「そうなんだ。楽しかった?」
「うん! すごいじょうずにできたんだよ。ひなまつりおわったらもってかえるから、ヒナちゃんにあげるね!」
そんな会話をしながら、帰宅した。
「ただいまー」
「おう。おかえり」
「え、パパ!? なんでいるの? おしごとは?」
ユウキは驚きながらも、嬉しそうにパパに駆け寄りそのまま抱っこされる。
「今日は半休⋯⋯午前中だけお仕事してきたんだよ。午後は大切な物が届くからお仕事休んだんだ」
「たいせつなもの?」
「ふっふっふ⋯⋯じゃーーん、コレだ!」
ユウキを抱っこしたパパはリビングのドアを開けた。そこにあったのは認識しないことは不可能なひな人形⋯⋯の、七段飾り。
「うわーーー! すごーーーい!! このおひなさま、保育園のより大きいよ!」
「そうかそうか、凄いだろう」
「ちょ⋯⋯。こんな大きいのどうしたのよ」
「もちろん買ったさ。この前の残してたボーナスでな」
「残してたって、大切な時の為に取っておいたんですけど⋯⋯って! まさか、残ってたの全部使ったの!?」
50万くらいあったはずなのに嘘でしょ!? とパパを見つめると、視線をそらされ「だって大きい方がヒナが喜ぶかと思って⋯⋯」と呟く。
まだ1歳になったばかりのヒナが喜ぶも何もないでしょうが!! と胸ぐらを掴みたくなったが
「ヒナちゃんよかったね! おおきいおひなさまうれしいねぇ。おひなさま、かわいいね! でもヒナちゃんのかわいさには負けるけど」
と、またもヒナに抱きつくユウキにそう言われてしまい、くそぉ何も言えねぇ。
抱きつかれ、またケタケタと笑うヒナにパパは
「あーー! ヒナちゃんは本当に可愛いなぁぁ。 ヒナちゃんが1番だっ!!」
と、パパまでがヒナに抱きついていた。
『俺にとって、キミが誰よりも1番可愛くて、ずっとキミが1番だ』って言ってたくせにぃぃぃ!
◆
───3月2日。
明日はやっと、ひなまつり。⋯⋯長かった。
さほど広くないわが家のリビングの半分程を、ひな人形七段飾りに占領されてしまい、部屋の中央に置いてたソファをズラすはめになったので、テレビが見にくくてしょうがない。
⋯⋯明日は、ひなまつり本番だから難しいだろうけど、明後日にはしまうぞ! リビングを広くする!
と思っているとテレビからニュースが聞こえた。
『──大谷田選手が今日もホームランと盗塁を成功させ、40-40を達成しました!』
それを見て思わず「へぇ、大谷田さんカッコイイね」と呟くと、オモチャで遊んでたユウキが
「うん。大谷田さんかっこいいよね! ヒナちゃんのダンナさんにぴったりだよ」
と言った。
えええーーー! とんでもない大物狙ってた!?
思わず私は言う。
「ヒナちゃんはユウキと結婚するんじゃないの?」
「ママ、ヒナちゃんは妹だよ。ヒナちゃんのことはだいすきだけど、兄妹じゃ結婚できないんだよ?」
そんなことも知らないの? と言わんばかりに言われてしまった。意外と現実的ーー!
「そっか、でも残念。大谷田さん、この前結婚しちゃったのよ」
「ええーー、残念。じゃ別の人探さなくちゃ。だれがいいかなぁ?」
と言いながら、またパズルで遊び始めた。そんなユウキの背中を見てると「だぁー!」という声と共に私の脚に重み感じた。
「どうしたのヒナ。あ、おっぱい欲しいの?」
「うきゃーー!」
ヒナの前にしゃがみ込んだ私に満面の笑顔で、ヒナが抱きついてきた。
かっわいいーーー! さすがはウチの子!
わが家のアイドル!!
私はスマホのカメラを連写した。
───今日もわが家は推し活に忙しい。
わが家のアイドル よつ葉あき @aki-2
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