朝陽のはじまる星空
@mayumi-iryuz
12月24日
第1話
「だいたいさぁ。クリスマスイヴにプラネタリウムって、ほんと意味分かんないんですけどぉ。」
親友の希羅々(きらら)が、やる気なさげにフーセンガムを膨らませた。
「えぇー?イヴと言えばプラネタリウムでしょ。彼氏と観る満天の星空☆。なんてロマンチックなんでしょう。」
朝陽は一昔前の夢見る少女風に、両手を胸の前で合わせ祈りのポーズを決めると、酔いしれる様に言った。
「あれぇ?彼氏はどこ?おーい彼氏さーん?」
希羅々がわざとらしくキョロキョロと捜すふりをしてみせた。
「まぁまぁ、小さい事は気にしないの。それに康之介君がバイトだから、今日は私に付き合うって言ったよね?」
「そ、そりゃそう言ったけど・・・」
「じゃあ希羅ちゃん、ちょっと待ってて。私は先にチケット買って来るから。」朝陽はそう言い残すと、急ぎ足で入口横の窓口へと向かった。
スマホをいじりながら、退屈そうに待つ事、2分。
「ふぅー、危なかったぁ。あと少しで満席だった。やっぱ、イヴと言えばプラネタリウムよねぇ。」
正直引き気味の希羅々は「売り切れても良かったのに。」とつぶやいたけど、興奮状態の朝陽の耳には、全く届く訳もなく・・。
「じゃあ、とりあえず、ブラブラしよっか。希羅々姫が欲しいって言ってたニット帽も探さなくちゃいけないし。」
「ついでに朝陽の腹巻もね。」
「それそれ、すっかり忘れてた。さすが希羅ちゃん、頼りになるぅ。」
「ん、まぁね。」
イヴ独特の空気に浮かれ気味の二人は、ちょっとした事にケラケラ笑いながら、ショッピングモールの人波に紛れて行った。
そもそも朝陽にとっては、クリスマスイヴにプラネタリウムを観るのは至極当然の事だった。星を見るのが好きだった母に連れられて、いろいろな会場で天井を見上げたものだ。地域の公民館的なこじんまりしたプラネタリウムだったり、最新式のプログラムを取り入れた立派な科学館だったり・・。その年の母の気分と、父が参加できるかどうかに左右されながらも、何かしら星空を眺めてきた。そのせいで、てっきりサンタさんは地球に住んでなくて、遠い星から1年に1度だけやって来ると思い込んでいたくらいだった。
中学生になり、友達とイヴを過ごすようになってからは全く縁がなくなっていたのに、何故か今年は、どうしてもプラネタリウムに行きたく、ううん、行かなくてはいけない!そんな気持ちがしていた。もしかしたら、亡くなった母が、空の上で寂しがっているのかもしれない。希羅々には言えなかったけど、朝陽にとっては、久し振りに母を感じられる、絶対はずせないイベントになっていた。
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