運命的な出会いを求める男が運命的な出会いに会ったら?

石田未来

運命的な出会いを求める男が運命的な出会いに会ったら?

第1話 「運命の出会い」を求める日常


「運命の出会いって、どこにあるんだ?」


 城崎遥斗しろさきはるとは今日も街を歩いていた。大学の講義が終わると、彼は決まって「運命的な出会いが起こりそうな場所」に足を運ぶ。

 それはカフェだったり、書店だったり、公園だったり——まるで偶然の出会いを拾い集めるかのように。

 遥斗は決してモテない訳では無い。容姿も整っている方であり、運動も高校時代はサッカー部に所属しインターハイにも選手として出場しているほどに能力がある。

 学業も学年で20位以内に入るほどに優秀でありモテない要素を探すのが難しい人間であった。


 だからこそ高校時代からの友人の望月修もちづきおさむには、呆れられていた。


「なあ遥斗、お前さ、出会いなんて気にせず普通に過ごせばいいんだよ」


「いやいや、それじゃ“普通”の出会いになっちゃうだろ?俺が求めてるのは、もっとこう……劇的なやつ!」


「例えば?」


「例えば——ほら、ぶつかった拍子に相手が落とした本を拾って『ありがとうございます』って微笑まれるとか!」


「……ラブコメの見過ぎだな」


 修はため息をつきながらコーヒーを飲む。

 遥斗の最大の欠点と言えるのはこのラブコメに脳を焼かれた終わった思考回路である。


 彼のスマホの画面には「運命の出会い」「恋愛のきっかけ」などの検索履歴がずらりと並んでいる。


「運命の出会いなんてドラマの中だけだってば」


 向かいの席でコーヒーを飲みながら、親友の望月修(もちづき おさむ)が苦笑していた。


「いや、そんなことない!だってよく考えてみろよ。道を歩いてて誰かとぶつかる→落とした本を拾う→目が合う→恋が始まる……みたいな展開、現実でも絶対あるはずだ!」


「そんなの都市伝説だろ」


「……それはそうなんだけどさ」


 遥斗はコーヒーをすすりながら、店内を見回す。


 カップルが楽しそうに話している。女友達同士がスマホを見せ合って笑っている。隣の席では、一人で本を読んでいる知的な雰囲気の女性——


「……ああいうのが理想なんだけどなぁ」


「は?」


「ほら、隣の席の人みたいな。読書好きで、落ち着いた雰囲気の人と、偶然話すきっかけができたら、それって運命っぽくない?」


「お前、そんなに運命に身を委ねたらあっという間にじじいになるぞ?」


「……」


 修の言葉に、遥斗は黙った。


 そう、運命的な出会いを求めているのに、「きっかけ」がなければ話せない。つまり物語のプロローグにすらいけないのである。


「だからこそ、運命の“偶然”が必要なんだよ!」


「はぁ……まあ頑張れ」


 修は適当に流しながら、スマホをいじる。


「俺はお前と違って運命もクソもないって思ってるからどんどん女の子に話しけるぜ?」


 修は親友として遥斗に諭す。

 彼は遥斗とは違い彼女もいてSNSで楽しそうに彼女との写真を公開しているリア充である。


「なぁ、遥斗お前はさ普通にしとけばモテるタイプなんだぞ?お前のその思考回路が全部をダメしてる」


「そこまでいわなくても…」


 高校時代の遥斗を知っているからこその発言である。

 モテる要素をいくつも持っていつつも彼女ができなかったのは、運命の出会いを求めるあまりに自分のセンサーに引っかからない女子と会話が杜撰だったことが原因である。

 

 そんなくだらないやり取りをしながらも、遥斗は諦めなかった。運命的な出会いに恋い焦がれていると言ってもいいその考えを元に今日もまた彷徨う。


 いつか必ず訪れるであろう運命的な出会いを信じて。


 その日も——彼は「運命」を探し求めていた。

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