3
レインとナナシはレンタカーに乗り、新潟から石川へと向かっていた。
『免許持ってるんですか』
「大人を舐めるなよ。」
不安定に北陸自動車道を駆け抜けるレンタカー。ナナシは座席とシートベルトから手を離すことができなかった。それにナナシにとってはあまりに狭く、首が痛かった。
『きれい』
林を抜けると、そこには美しい湖、邑知潟が広がっていた。サキが数羽ほど、夕日を反射する水面を歩いている。ナナシとレインは北側の湖岸に車を止めた。
『家の一つもないですね』
「ここは昔から避けられてる。」
水面は太陽の代わりに月を映しており、いつの間にかサキは居なくなっていた。凪いだ湖が蠢いている気がする。ナナシは目を凝らした。するとそこには小さな何かが無数に広がっていた。喉を締め付けられるような鳴き声が聞こえてくる。一刻も早くここを離れなければ。そんな考えが頭を支配していた。
「自分を強く保つんだ。」
レインはそう言い残すと、闇夜に紛れて消えた。
レインは邑知潟付近の原生林へと向かっていた。鼻歌を歌いながらコルトパイソンを回す。すると視界の端で人の影を捉えた。
「っ。」
レインは顔をしかめ、その影を追った。月明かりも差し込まない原生林へと分け入っていく。植物独特の濃い匂いが鼻腔をかすめた。レインは影を掴むと、首元に銃口を押し当てた。
「次から殺すって、言ったよね。」
「き、勝手なこぉ
引き金を引く。レインが死体から顔をあげると、そこには青白く不気味に発光する生命体がいた。奇妙な鳴き声、波打つエラのような器官、特徴的な頭部。レインは再び発砲した。するとそれは暴れまわりながら塵になって消えた。鋭い爪が木々を穿ち、2メートルをゆうに超える巨体が地面を揺らした。その生命体が通ってきたであろう獣道を辿る。そこには井戸のようなものがあった。その粗雑な造りから、かなり前のものであることが分かる。中を覗くと、青白く発光する球体が幾つも連なっていた。光が鼓動のように一定のリズムで収縮・膨張を繰り返す。レインは手榴弾を取り出し、安全ピンを引いて井戸の底に放った。
「ナナシ、だいじょうぶかな。」
ナナシはひたすら十徳ナイフを振りかざしていた。青白くうねるように発光する球体が迫って来る。分裂と結合を繰り返し、陸を徐々に侵食する。逃げなければ。呼吸が早くなり、心拍数が上がる。美しい湖景は惨憺たる有り様へと変貌していた。
すると背後から人影が迫ってくるのに気がついた。ナイフの先を向ける。そこには白装束を着た年老いた人々が10名ほど立っていた。
「いのち様がら離れろぉ。」
「こんの、外道があ」
罵声が飛んでくる。ナナシは思った。この人たちはもう正気ではないのだ。ナイフを強く握りしめた。
「おつかれ。」
いつの間にか車にはレインが戻っており、卵サンドイッチを頬張っていた。ナナシはフラフラになった体をなんとか引きずり、ボンネットにもたれた。息を整える。
「殺せたね。素晴らしい決断だ。」
海岸には人の刺殺体が転がっていた。ナナシはメモ帳の上でペンを走らせる。
『ありがとうございます』
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