2
レインとナナシは東北新幹線から上越新幹線に乗り換え、新潟へと向かっていた。
『そんなに食べれますか』
レインは駅弁を4つほど購入し、目を細めてそれらを美味しそうに口に運んでいた。小さな体のどこに空きがあるのか、すべて平らげるのをナナシは呆れたように眺めていた。
「これ、あげるね。」
レインはナナシの手に何かを握らせた。十徳ナイフだった。
「因みにナイフしか効かないから。」
三上市立ひだまり幼稚園に到着した。平日の昼間だと言うのに、周囲は閑散としていた。
「手遅れかな。」
レインが呟く。小さな運動場を通過し、吹き抜けの廊下に土足で上がった。子供用の色鮮やかなリュックサックに、ふたがコップになるタイプの水筒が並んでいる。しかし子供はおろか、先生も保護者も見当たらなかった。
ナナシはこめかみあたりが締め付けられるような痛みに襲われた。どこからか懐かしい音楽が聞こえてくる。誰もが知っているような、そんな童謡。
「こっちだね。」
レインとナナシは「ぱんだ組」と書かれた教室の前に立った。中には多くの園児と数人の先生がいた。レインが砂時計を翳す。砂はゆっくりと逆流していた。
「先に言っておくね。」
レインは扉に手をかけたままナナシに言った。
「私は人間どもに興味が無い。ただ異常な現象を消したいんだ。」
背を屈めて教室の中に入る。一瞬激しい痛みが稲妻のように走ると、教室内の光景が一変した。至る所にこびりついた血液。鼻を突き抜ける腐敗臭。視界いっぱいに死体が広がっている。そんな教室の中で平然と生活を続けている園児と先生ら。ナナシは震える手でメモ帳に書き込んだ。
『できない』
レインはそれを覗き見ると、ナナシの手からペンをもぎ取りメモ帳に書き足した。
『私を信じろ』
レインは教室内の状況に全く意に介さない様子で、奥へと進んでいく。再び懐かしさを与える童謡が流れ始めた。その時、直ぐ側の園児が視界から消えた。熱い液体がメモ帳と顔にかかる。赤黒い。そして鉄の匂い。園児の上半身が無くなっていた。すると薄っすらと何かが見えた。ナナシは十徳ナイフを強く握りしめ、それに突き立てた。
レインはロッカーの上に置かれているラジオを見つけた。シリンダーを回転させ、ハンマーを下ろす。静かにトリガーを引いた。童謡は不協和音へと変わり、ついに止まった。
死体や血痕が塵となって崩壊していく。園児や先生らは何もなかったかのように普段の生活を続けていた。
ナナシは幼稚園の狭い運動場で、座り込んでいた。背後からレインが近づく。血でふやけたメモ帳には、こう書かれていた。
『僕にもできるでしょうか』
レインはナナシの頭を乱雑に撫でた。
「できるとも。」
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