【異星人外交官】歩く異星人

ロックホッパー

 

歩く異星人

                          -修.


 銀河連邦のエージェントとして最初の異星人が地球に来訪して以来、毎年のように次々と異なる異星人が表敬訪問に訪れるようになった。このため、地球政府は宇宙港に異星人専門の外交機関を設置した。

 「所長、そろそろ次の異星人が来ますかね。」

 「そうだな、前回の訪問からそろそろ1年経つからな。」

 「次はどんな言語でしょうね。」


 最初に来訪した、銀河連邦のエージェントの異星人は長い時間をかけて地球の言語を研究し、通常の電波に公用語を載せてコンタクトしてきた。しかし、それに引き続いて次々と来訪する異性人達はそんな配慮はしてくれず、遠慮なく自分たちの言語で会話してきた。そして、その言語は多様であった。


 まるで音楽のような音階による会話などはかわいいもので、たとえ音声だったとしても5つの声帯と5つの口を持つ異星人の場合、それぞれ調音された五重和音の1音が1単語だったこともあった。このため外交官がそのことに気付くのにはかなりの時間を要した。

 音声以外の伝達手段もあった。レーザー光による会話では、異星人が発した一言目で外交エージェントロボットの頭が吹っ飛んだ。いきなり攻撃されたかと誰もが思ったが、後に異星人は「こんにちは」と言いたかったらしいことが判明した。少し出力が強すぎたらしい。

 他にも、味覚による会話、テレパシー、百個の目の開け閉めの組み合わせによるデジタル信号、なんでもありだった。重力波で話しかけられたときは、宇宙港の発着床が地震の後のようになるわ、外交官は船酔いになるわ、大変なこととなった。しかも、地球側からは重力波で返事をする手段がなく、結局、デジタル信号で新たな共通言語を作らざるを得なくなった。


 そして、新たな異星人がやってきた。いつものように巨大な宇宙船が着陸し、今回タラップを降りてきたのは、全身緑色で8脚の足と4本の腕を持った、まるでカマキリのような虫系の異性人だった。とはいっても、地球側がエージェントロボットで出迎えているように、相手側もロボットなのかもしれない。いずれにしろ、地球に来るのは、だいたい異様な姿の異星人であり、生理的にはすぐにでも攻撃したくなるところだが、すべての異星人が地球より数千年も数万年も科学技術が進んでおり、その気になれば一瞬のうちに地球を消滅させることができると考えると外観での判断は全く当てにならなかった。

 外交官達は、タラップを降りて発着床に降り立った異星人に注目した。第一声、もちろん音声とは限らないが、どのような手段で会話してくるかを見極めることが会話の第一歩となるからだった。宇宙港には音声マイクはもちろん、電波、磁気、光、重力などあらゆるセンサーや多数のカメラが配置され、異星人が発するメッセージを受け取ることができるようになっていいた。

 しかし、外交官の予想に反して、この異星人は何かを発することなく、立ち止まることさえもなく、タラップから数十m先に立たせているエージェントロボットに向かって真っ直ぐゆっくりと歩いていた。

 「所長、これはどういうことでしょうか。どのセンサーからも何も反応がありませんけど・・・」

 「分からないな。接近しないと伝達できない会話手段かもしれないな、味覚とか、振動とか・・」

 しかし、外交官の予想を裏切り、異星人は途中で直角に方向を変え、エージェントロボットから離れ始めた。

 「所長、いよいよ何がしたいのか判らなくなってきましたね。」

 「そうだな。歩く行為自体に何か意味があるのだろうか。」


 その後、異星人は二度方向を変え、最初の位置に戻り、再び同じように歩行を続けた。このまま繰り返すとすれば、ずっと正方形に沿って歩き続けることになる。

 「これには何か意味があるに違いない。何らかの手段でコミュニケーションを取ろうとしていると考えるべきだろうな。」

 「しかし、所長・・・」

 「試しに1周目と2周目の映像を比較してみてくれないか。」

 コンピューターで合成した1周目と2周目の映像は完全に一致していた。手足の動きに全く差がない。

 「何かは分かりませんが、メッセージか、何かは1周で完結しているようですね。」

 「うーん、謎だな。しかし、毎周同じ動きということは、やはり、あれはロボットなのかも知れないな。」


 外交官達が頭を抱えて見守っている間に、異星人の歩行は3周目に入っていった。

 「所長、異星人は足から粘液か何か出ているんですかね。発着床に足跡が付いてきていますよ。」

 「足跡・・・」

 発着床には8本足によってできた、4列の足跡がうっすら表れていた。所長は、ふと思い立って部下に告げた。

 「念のため、足跡がどうなっているか画像から抽出してくれ。」

 「わかりました。ちょっと待ってください。えっーと、出ました。毎回、足は同じ場所を踏んでいますが、1個1個の足跡は向きが微妙に違っていますね。」

 「それだ。」

 所長は何か閃いたようで、叫んだ。

 「彼らの言語は足跡だ。足跡が何かの単語を形成しているのではないだろうか。」

 「なるほど、角度の違いが言語のキーになっているということですね。しかし、足跡が言語だったとして、いったい何を意味しているんでしょうか。」

 「それはわからないな。まずは、自然数の表現から入っていくのが定石だが・・・」

 「こちらのエージェントは2足歩行ですからね。」

 「確かに。何か方法は・・・。新たなデジタル共通言語を構築するしかないのか。」

 二人は再び頭を抱えた。しかし、異星人が5周目に入るころ、所長が何か思いついたようで口火を切った。

 「エージェントロボットを3体増やして、電車ごっこのように並ばせてみよう。そして、同時に歩かせるんだ。そうすれば、足は8本で異星人と同じになるじゃないか。」

 部下の外交官は所長の指示通りにエージェントロボット4体を並ばせ、試しに数歩前進させてみた。

 異星人はそれを見ていたのか、突然歩行を止めて、正方形の歩行経路を無視して最初の位置に戻った。そして、新たなステップを踏み出した。それは、自然数に対応したステップであることがコンピューターの解析によって判明した。


 かくして新たな異星人の言語は解析され、会話が成立した。人々はこの異星人をフットプリンターと呼ぶようになった。


おしまい

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