積雪とひなまつり

ペーンネームはまだ無い

第01話:積雪とひなまつり

 アパートの外付け階段を駆け上がる音がする。きっと公太だ。

 それからすぐに玄関のドアが開くと、公太が我が家に上がり込んだ。いくら幼馴染とはいえインターフォンかノックくらいはして欲しい。

 公太が背負うランドセルには少しだけ雪が積もっていた。


「なあ、桜子! 雪合戦しようぜ!」

「えー、やだ。寒いし」

「ノリ悪いな」


 不満そうに声をあげた公太が、ふと私の手元に視線を落とした。


「折り紙なんか折ってんのか」

「別に良いでしょ」

「何作ってんの?」

「お雛様」

「あー、今日って雛祭りなのか」公太が視線を巡らせる。「美穂んちって雛人形無いよな」

「高いもん。ウチじゃ買えないよ」


 だから、折り紙の雛人形で我慢する。

 自分から聞いたくせに「ふぅん」と気のない返事を公太がした。


「もう用が無いならさっさと帰って」


 追い払うように手を振る。

 けれど、公太は気にする風もなく何かを考え込んでいた。そして「おう」とだけ言い残してウチを後にした。

 ……今の何? まぁ、いいか。

 私は気を取り直して折り紙を再開する。


 それから30分。ようやく雛人形が完成した。

 お菓子の箱で作った雛段にお内裏だいり様とお雛様、三人官女を乗せる。2段だけの小さな雛飾り。

 それをニヤニヤと眺める。でも、少し経つと空しくなった。

 小さくため息を吐いて「もっと大きな雛飾り欲しいな」と呟いた。


「おい、桜子!」


 不意に窓の外から声がした。

 外を見ると階下で公太が私にむかって手を振っている。


「何か用?」と問いかけても

「いいから降りて来いよ!」としか返ってこない。


 まったく何なの、もう。文句を言いつつ外に出る。


「うわっ、何これ?」


 アパートの外付け階段には沢山の小さな雪だるまが所狭しと並んでいた。

 それらを壊さないように気を付けながら降りると、公太が笑みを浮かべて待っていた。


「雛飾り作ったぞ」


 振り返って階段を見る。

 四人官女や四人囃子になっていたりと並べ方は無茶苦茶だったけど、確かにそれは雪だるまで作った12段の雛飾りだった。

 思わず喜びの声が出た。


「これって、私のために作ったの?」何気なくそう聞くと、

「おう」とだけ公太がぶっきらぼうに答えた。


 なんだかそれが嬉しくて、思わず「ニヒッ」と変な笑い声が出た。

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