おひなさま当番

いまい あり

おひなさま当番

 ここ精霊のいる世界では毎年6人の精霊が順番に雛人形のおひなさまの中に入り【たましい】となって「愛されるおひなさま」になるためだ。


 精霊達6人全員がおひなさまになりたくて仕方ない。順番が決まっていない頃は毎年話し合いでおひなさまを決めていたが、精霊達は誰もがおひなさまになりたくて、おひなさまを決める時期は毎年大喧嘩になっていた。


争いの後に、おひなさまの【たましい】になるとキツイ表情になって愛らしさがなくなってしまうので順番を決めることにした。それ以降は争うこともなく平穏にひな祭りを迎えることが出来た。


今年はエーちゃんの番だったが、去年から他の役目を担っていた。ひな祭りまでに戻る予定だったが長引いてしまい帰れなくなった。


それを知った精霊達は今年は誰がおひなさまをするのか?と騒ぎ始めた。

おひなさま当番を管理しているヌシ様は今年は一波乱あるのではないかと戦々恐々としていた。


6人の精霊は口々に自分の意見を主張する。


「今年の当番のエーちゃんが戻って来ないんだって!おひなさま私でもいい?」


「順番でいくとエーちゃんの次は私だから、わ・た・し!」


「平等にジャンケンで決めたらいいんじゃない?」


「みんなやりたいんだし、手足とかパーツ担当して全員おひなさまになるとか?」


「手足担当なんて嫌!!絶対顔がいい!早い者勝ちにしようよ!」



次の瞬間6人の精霊はお互いをチラッと見て全員が姿を消した。



「ママっ!今年もおひなさまを出す?今年は茉優まゆが出してもいい?」


「そうね。茉優も大きくなったしお願いしようかな。」


茉優は嬉しそうにその箱を開けた。が、次の瞬間


「ぎゃーーーっ!」


母は茉優の異様な反応に驚いて茉優をみた。


茉優の手には、顔だけしかないおひなさまがあった。その顔には5つの目鼻が歪んで並んでいた。


天上からヌシ様とエーちゃんがその様子を伺っていた。

「これであやつらも「トリの降臨」だな。」

「…トリの降臨?」


ヌシ様はニヤリ笑って言った。

「トリ…すなわち最後という意味じゃ。精霊にとって降臨は良い意味ではない。あやつらは下界に降りて人として生きる修行するのだ。苦労するじゃろうのぉ」


エーちゃんはヌシ様の恐ろしさをと知った。

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