十一
第11話
無事に高校にも合格して高校生活が始まった。高校はバスで30分かかるところにあった。進学校と言うこともあり朝補修が7時からあったため朝は6時15分のバスで行かなければならない。行きのバスは同じ高校の生徒でいっぱいだった。
これまでとは全く違う新しい場所、新しい校舎、新しい人々。やっと中学を卒業して新しい環境にに来ることができた。待ちに待ったはずだったのに、美里は怯えるように高校生活を開始した。教室に入って初めて見る人々が怖かった。
自分がどう思われるのか、どう評価されるのか、そう考えると皆が話していることが自分のことのような気がして、それはきっと悪いことのような気がして、、そうではないと考えないようにしてもダメだった。
自分の机に座ってひたすら下を向いた。傷つく心を押し込めて傷つかないように考えないように耳をふさいで何度もナイフで自分の心臓を刺した。
それでも恐怖は取れなかった。新しい場所に来ても何も変わらない。こんなおびえている自分がいる。皆はそれぞれで話をしているのに私は動くことが出来なかった。
なんでこんなにもダメなんだ。もう嫌になる。そう思っても、顔を上げて皆の顔を見ることができなかった。
怖くて背中がびりびりする。もう透明人間になってしまいたい。新しい人々がいるだけでこんな思いをするのなら友達なんていらない誰も私に話しかけないで。そう願っていたら美里の目はいつの間にか話しかけるなと言わんばかりのオーラを出し人をにらみつけているようになった。
新しい環境での美里は自分の殻にどんどん閉じこもっていった。どうか皆が私を認識しませんように。
高校が始まってから新入生研修会があった。少年自然の家で2泊3日の研修だった。その日もきっと話し掛けるなオーラは全開だった。それでも主に集団行動があったため皆が集まっていたが美里は一人でいた。ちらちらと周りの話している人々を横目で見ながら
私は一人のほうがいいのだそう言い聞かせた。それが自分を守る方法だった。
お風呂の時間になって一人になりたかった美里は早めにお風呂に向かった。誰もいなくてやっと心を休めることができた。体を洗っていると一人やってきた。嘘。どうして
やっと一人になれたのに。そう思っていると私の隣に座って体を洗いだした。どうしてわざわざ私の隣に?そう思ってドキドキしながら速く洗っていると、
「私たち一番乗りだね。」
えっと、私に話しかけてきた?今は二人しかいないし、確実にそうだよね。
「そう、、だね。」
「名前なんて言うの?」
「美里。」
「美里か、あだ名とかあった?」
「いや、特に。」
「そっかー。うーん、、、。そしたら私は美里って呼ぶね。いい?」
その子のほうを見ると笑顔で八重歯がくっきりと見えていた。
「うん。」
「私は、るかっていうの。私は美里って名前で呼ぶんだから美里もるかって呼んでね。」
「るか、、、わかった、、、。」美里は正面を向いて体を洗いだした。何なんだこの子は。なんで私なんかに話しかけてくるんだ。だって私はこんなに目つきも悪くて話しかけるなってオーラもきっと出ている。実際に入学してから
誰も私に話しかけてきてはいない。私と話したって何の得にもならないのにどうして。お風呂を出て着替えていると、るかも出てきた。そして私の横で着替え始めた。
「この後キャンプファイヤーがあるでしょう。一緒に行こう。」
「え、、、私と?」
「うん。一緒に行こう。確か部屋も一緒だったよね。このまま戻ってからすぐ行こうよ!きっと一番乗りだよ!」そう笑顔で言ってきた。
「わかった、、、」と答えると、るかは笑ってやったなんて言っている。この子はいったいなんなだろう。
私に何の目的があって一緒に行こうなんて言うのか分からなかった。一緒に部屋へ戻って荷物を置いてから「じゃあ行こうか。」るかはまた笑顔でそう言った。
キャンプファイヤーは宿舎の裏側の上のほうにあった。るかと一緒に坂を上ってその場所につ着くと
「やっぱり一番乗りだったね。そこそこ高いところにあるんだね。坂きつかったー。」そう言って登ってきた道を見ては両手を広げていきをいっぱいに吸っていた。そんな姿を美里は横目で確認した。なぜ初めて話した子にこんなにも話せるんだ。
それも楽しそうに。まだ何も知らない相手にこんなに自分を出せるものなのか。そんなことを考えていたが、笑顔で話してくるるかの姿を見ていると美里もいつの間にか笑って答えていた。それに偶然にもかるかとは同じクラスだった。
二人とも顔を合わせながら「すごーい。良かった。」
「これから一緒にいられるね。美里とは何だは初めて会ったって感じがしないんだよね。だって今日初めて話したのに、こんなに楽しいし。ねっそんな感じしない?」るかは美里の顔の前まで自分の顔を近づけて目をキラキラさせながらそう言った。
確かに美里はいつの間にか普通に話すことができていた。この研修に来てからこんなにちゃんと話したのは初めてだった。こんなに話しかけにくいであろう私に話してくれる人がいるだけで驚いて、戸惑ったけど、るかが話かけてくれたことは素直にうれしかった。
だから「私もるかとは初めて会ったような気がしない。これからよろしくね。」そう笑って答えた。「そうだよね。美里も同じだったかー。良かったー。」るかは日が暮れて星が見え始めた空を見上げて両手で背伸びをしながらそう答えた。
るかと一緒に過ごしことができたキャンプファイヤーは楽しかった。次の日目覚めてから昨日のことを思い返すと嘘のように思った。でも朝にるかは美里を見つけると「おはよう。」と昨日と同じ笑顔で迎えた。
るかはほかの人へ話すときも美里と同様によく笑っていた。女子とも男子とも話していた。両手を叩いて大きな声で笑ったり、研修の時には自ら発言したりと活発な子だった。だれとだって仲良くできるのに。
「美里こっち。」「美里一緒に行こう。」「美里!」といつも誘ってきた。食事も移動中も研修中もずっとるかと過ごした。それでも美里は周りの目を気にして、相手にどう思われているのか気になって、良く下を向いていた。
目つきだって変わらずきつかったはずだ。それでもるかだけはずっと美里に話しかけて一緒に過ごしてくれた。
研修が終わってから学校が始まった。研修ぶりの学校は初日のような恐怖があった。教室に向かう途中廊下のど真ん中を両手に手を入れて顎を上げ気味で歩く男子達の姿が見に入った。下を向いてよけるようにすれ違った。どうやったらあんなに自信満々で
歩けるのか分からなかった。相当自分に自信のある連中なんだ。あんな人たちとは絶対にかかわりたくない。そう思い教室に入ると研修で仲良くなった生徒が集まり、いくつかのグループができて楽しそうに話していた。
美里は下を向いて横目で人に当たらないように確認しながらすり抜けるようにして自分の席についた。席についてからも下を向いたままだった。
どうしてみんなあんなに堂々としているんだ。よほど皆自分に自信があるんだ。話し声が聞こえる。笑い声が聞こえる。皆の目線が怖い。
どうか私のことじゃありませんように。誰も私を見ませんように。誰も私を認識しませんように。
、、、と、、さと「美里!」はっとして顔を上げると目の前にるかがいた。
「おはよう!」るかは出会った時と同じ笑顔でそう言った。
「お、おはよう。」
「何回も呼んだのに、無視されてると思ったよー。」
「そ、そんなわけよ。考え事してただけ。はは、、。」な、、んで。なんで私なんかに話しかけてくるの?
こんなに話しかけるなオーラ全開で目つきも怖いのに。でも、、、嬉しかった。それにるかのことは不思議と真っ直ぐと見ることができた。
それから学校ではいつも一緒にいた。るかのほうから、朝も移動教室の時も、休み時間も昼休みもいつもの笑顔で「美里!」と言って声をかけてきた。次第にそのペースに染まっていくように美里もるかの後を追うようになった。
るかと一緒にいるのは居心地が良かった。もちろんるかは他の女子や男子とも普通に話をしていた。そんな姿を横目で見ながらすごいなーと思いながら、私には絶対に無理だと思い周りの視線を気にしながら過ごしていた。
その時も教室の隅の自分の席に座っていた。すると放れたところからるかが、
「ねえ、美里ちょっといいー?こっちこっち」と手招きをしていた。そこには女子のグループができていた。え、、嫌だ行きたくない。でもるかが呼んでいる。行かないと私が無視した感じになっちゃうよね。
一度下を向いてしまったが、勇気をもって近づいていった。美里の胸は高鳴り脂汗をかいているのが分かった。
一生懸命に笑顔を作って「どうしたの?」と聞いた。皆の視線が美里を向いているのが分かった。美里はるかの顔しか見ることができなかった。
「みんな美里とおんなじバスで来てるっていうからさ中学とか住んでるところとか近いのかなーって話になって。」
「そ、、そうなんだー。」私のことを知っている。しかもおんなじバスに乗っていることまで、やっぱりみられているんだ嫌だ。何を言われているか分からない。怖い。でもとにかくここは私の気持ちを悟られないように、、、。美里は必死に笑顔を作りながら相打ちだけを打った。
その場を離れてから自分の席に着いて大きく息を吸った。自然と息も浅くなっていたのだろう。彼女たちと一緒にいたときに記憶があまりない。そもそも話していた内容すら覚えてはいなかった。とにかくその場を乗り切ろう。そのことばかりを考えていた。
休み時間になって教室を出ようとするといつか廊下ですれ違った両手をポケットに入れて顎を上げながら歩いていた人たちが教室に入ってきた。顔はかっこいいほうなのだろうけど、この感じの人は苦手だ。絶対にかかわりたくない。そう思っていると、、
「ねえ、あんたさ壱と同じ中学なんだろ?」
え、、、何?私に言った?こっち向いてるし、絶対私だよね?思わず顔上げちゃったから思いっきり目会ってるし。とにかく何か答えなくては、
「そうだよ。」
「ふーん。」
「うん、それじゃあ。」逃げるようにそな場を立ち去った。怖かったー。いったい何だったんだろう。なんで話しかけた?そもそも壱のやつ私のことを言ったのか。小学校と中学校でのことでも話したの?私の中での壱との記憶は壱と真からの嫌がらせ、嫌あれはいじめだった。
その記憶が強かったため、きっと悪口を言っているに違いない。絶対にそうだ。きっとさっきの人も私に対して悪い印象しかもっているに違いない。これから嫌な噂ばかりが広まってしまったらどうしよう。そればっかりで頭がいっぱいになった。
美里はさらに周りを警戒するようになった。この日はどんなに皆の視線を気にしないようにしても気になってしまった。気にして傷つく心を何度もナイフで刺していた。
昼休みになってるかと話していてもうまく話が入ってこなかった。
「美里、美里、美里ってば!」
「はい!ごめんなんだっけ?」
「ちょっとーどうしたのさーなんか大丈夫?」
いけない。せっかくるかと一緒にいるのにせっかく私なんかに話しかけてくれているのに。
そんなことを思っているとるかが
「美里ってさなんだか周りを気にしてるっていうか、なんとなくだけどそんな感じがする。」
「え、、、そ、そう?」ごまかすように笑った。
「私美里といるとなんか安心するっていうか、一緒にいて気を使わなくていいし、ほら初めて会った時に初めて会った気がしないって言ったじゃない。だから美里ももっと肩の力抜いてさ、一緒に楽しいこと出来たらいいなって思うんだよね。」
るかは両肘をついて手の甲を合わせ、そこに顎を載せながらそう言った。
「私もるかといたら楽っていうか安心するよ。でもるかってすごいよね誰とでも話せてほんと尊敬しちゃうよ。私なんて全然話せないっていうか緊張しちゃうっていうかるかみたいにはできないかな。はは」笑いながらそう答えた。
「そうかな、美里も話してみたらいいのに。」
「わたしはいいや。」
「ふーん。」
るかは窓の外を見つめてからしばらくすると美里のほうを向いて、
「私さ中学時に仲のいい友達がいたんだ。そう思ってたのは私の方だけだったかもしれないんだけど。私その子のことが大好きでその子も私とおんなじくらい私のことが好きだと思ってたの。私たちはいつも一緒にいたんだけど、その友達はほかのことも仲良くして、
その姿を見たらやきもち焼いちゃったの。なんで私とじゃなくてあの子たちと一緒にいるの。て言っちゃったの。その子が他の子と遊ぼうとしたり、誰かがその子を誘ってきたりしたら私が断ってたんだ。その私の行動にその子が怒っちゃって、私はあんたのものじゃないって言われちゃった。
その言葉を聞いたら悲しくなっちゃって、私って独占欲みたいなのがあるんだよね。仲良くなったら一緒に何でもしたくなっちゃうの。それから仲間外れにされることも多くなって、いじめられたことだってあるよ。」
「そう、、なんだ。全然そんな感じには見えないね。」
だっていじめられたことあるなら傷ついて消極的になったり、するんじゃ、、だってるかは私の目から見たらかなり積極的で自ら仲間に入っていって誰とでも話せて明るくて、私と同じ過去も経験があるのにるかは私と正反対の人間だった。
「まあ私ってそんな感じだからさ美里のことも独占しちゃうかも、しれが嫌になったら言ってね。」るかは八重歯を見せながらそう言った。
こんな私でもるかみたいに明るく誰とでも話したりできるのかな。るかの笑顔を見ながらふと思った。
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