傭兵たるもの

櫟(くぬぎ)ちろ

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 ――大陸暦1385年。西の屍地、ロッテン荒野。


 激しい雷雨に見舞われる空の下、荒れ果てた大地の上に両手を広げて仰向けに横たわる男。辺りには、血溜まりと無残な死体――恰好からして彼の仲間たちや、魔物や魔族たちなど――が幾つも転がっている。


 察するに、ここで激しい戦闘が繰り広げられていたのであろう。胸に致命傷を負いながらも、小さく呼吸を刻んで横たわる彼が、それを一番物語っている。


 雨に打たれても尚、自身の傷など一切気にする事もせず、綺麗なその瞳――みどりあお虹彩異色症オッドアイ――で、黒く淀んでいる空をじっと仰ぎ続けていた。


 ――数時間後。


 この屍地に、一つの奇跡が訪れる。先ほどまでの大荒れの天気はどこへやら、黒雲を掻き消すように、神々しい光が空いっぱいに広がっていく。ゆらゆらと揺れ動くその光は、血で穢れきった大地を浄化するかのように、煌々と照らしていったのだ。


 しかし、その光が彼の傷を癒すことはなかった。むしろ、咳き込むほどに痛みは酷く増していき、口元の端からは、どろっとした血液がこぼれ出る。


 それでもなお彼は、光で溢れ返る空を眩しそうに、まるで少年のような眼差しで、少し嬉しそうな表情をさせながら空を見つめている。


 それに時々、口を開いては――呼吸をするのでやっとな口が微かに動いているだけ――笑顔を見せながらを楽し気に話している。


 だが、その声はどこにも響かず誰の耳にも届くことはない。ただ風が吹いては、回転草タンブルウィードが地を転がる音と、風になびく枯れ木のきしみ音だけが響き渡る。


 ――数十分後。


 話すのに少し疲れたのだろうか? 彼は眺めていた空に手を伸ばすと――弱々しい右手をゆっくりと――、なにかを掴むような仕草を繰り返す。しかし、それも虚しく、ただただ空を掴むばかり。


 ようやく諦めたのか、その手をゆっくり胸の辺りに下ろすと、ぎゅっと手のひらを握り締めた。


 そして、満足そうな笑みを浮かべながら、薄れゆく意識とともになにかを呟くと、左右非対称のその両目をゆっくりまぶたの裏へと隠した。

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