鎧装
『ああ? なんだよお前、まだ歯向かおうってのか? 慌てなくてもすぐに殺してやるからお寝んねしてろよ』
もはやユウキのことなど眼中にないかのように、立ち上がったユウキを蜘蛛女は嘲笑う。
「……もう一度、俺に力を貸せよ、ヴェネオーン」
それは、ユウキが内包する、敵に立ち向かう為の力の名だ。
その力はユウキを怪物のような存在へと変貌させるものであり、ユウキはこれを使うことを恐れていた。
だが、真琴を守りたいという気持ちの前には、そんな恐れなど取るに足らない問題だった。
「お前の相手は、俺だよ」
ユウキの腹部から六角形の金属の塊が現れ、ベルトのようにユウキの腰回りに装着される。
「ユウキ君……なにする気……?」
ヒーロー番組にでも出てきそうなベルトをどこからともなく取り出したユウキを見て、真琴は一瞬恐怖も忘れて困惑する。
『お前……それは……!』
蜘蛛女の見下したような声音が一転し、焦るように数歩後ずさる。
「
その名をユウキが叫んだ瞬間、バックルの中から液体状となった金属が噴き出す。
その様子を見たユウキの手が恐怖に震えるが、そんな感情も飲み込むように、金属は瞬く間にユウキの全身を覆い、激痛を与えながらその身体を戦闘に適した形へ強化させる。
金属に身体を乗っ取られていくかのような痛みに、ユウキは慟哭のような悲鳴をあげるが、それでも歯を食いしばって耐える。
やがて金属は完全にユウキの感覚と一体化し、不定形だったその形状が、トカゲと蛇を混ぜ合わせたような異形の鎧の形で固定され、銀一色だったその鎧も、紫と黒を中心とした色へと変化した。
『俺は……』
朦朧とする意識の中、ユウキは自らが異形の鎧の戦士、ヴェネオーンとなったことを理解した。
『……へへへ、ようやく本当の姿を見せたか』
蜘蛛女はユウキの変貌に驚きつつも、ようやく標的が真の姿を現したことを喜んでいた。
「……ユウキ君、何それ……聞いてないよ……」
異形の姿となったユウキを見て、真琴はただ、自分の信じていた日常が音を立てて崩れていくことに、呆然とするしかなかった。
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