白昼夢
最高血圧
白昼夢
あたたかな春の午後
新居はぬくぬく日当たりが良く
リビングの床に寝そべる
満ち足りた飼い猫一匹
突然の訪問者にとび起きる
電話工事?
ああそうでした お願いします
人懐こそうな笑顔を中に通す
玄関ドアを即ロックした私に
「カギは開けたままで。道具を取りに出たり入ったりしますので」
目を伏せ思わず口ごもる
「すみません、癖なんです…」
内と外を直ちに遮断せずにはいられぬ病
だって外は鬼だらけ
家の福の神は今夜出張で留守だから
結界は張っておかないといけないのです
きらきらした茶色の瞳で目礼すると
工事の彼は作業に取り掛かる
すれ違う度にしなやかそうなその体からは灰皿の匂いがしたし
目と同じ色の一つに束ねた髪はパサパサだったけれど
なぜなのだろう
こんな猫が欲しい
ああ 飼いたい
希望というより切望
いやむしろ渇望
この仔を膝の上にのせて
鼻をつんつん突いて嫌がられたり
首筋に顔を埋めておひさまの匂いを嗅いだり
なめらかなお腹を思う存分なでまわしたり
したい
したい
したい
「終わりました」
にこやかに告げる声
我に返って冷や汗が出る私
一服盛ったお茶を出したくなるのは
きっとこんな時かもしれない
音もなく靴を履き
振り返り にゃあ(と聞こえた)と挨拶
工具箱を抱えドアの外に行きかけるその骨ばった手首
思いきりつかんで引き留めたい
猫同士 視線が絡み合って
一瞬の熱い閃き 火花のような衝動
はじけて散りはせず 煙幕となり漂う
その向こうにはほら 床の上
転がりじゃれ合う2匹の猫
陽だまりの中戯れる
飽きもせず
あたたかな春の午後
酔いもせず。
白昼夢 最高血圧 @cabbage8
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