ー14-

第14話

ふたりは、蹲踞の姿勢からすっと立ち上がり、中段の構えを取った。

決まった合図もない中、向き合ったふたつの竹刀の先は、やがて交差し、触れ合い、カチャカチャと音を立てた。

少しずつ母が距離を詰めて、おじさんが間合いを保つ。そんな動きに見えた。

小さな駆け引きが続いた後、

「イヤァァァァァ‼」

と、母が突然声を上げ、ぐいと一歩、距離を詰めた。

母の細く長い腕とひとつになった竹刀が、おじさんの喉元に向けられた。

おじさんは、足をわずかに退き、竹刀をほんの少し縦に構えた。

「おじさん‼」

思わず声が出ていた。

退いちゃだめ! 攻めて‼

胸の奥から込み上げるような想いが、喉まで届き、声になろうとしたその瞬間、

「ォォォアアアアア‼」

と、おじさんの叫び声が道場に響いた。

おじさんは竹刀を中段に構え直し、その体をじりじりと前へと進めた。

ふたりの距離が近くなった。

ふたつの竹刀が細かく向きを変えながら、互いに隙をこじあけているようなせわしないさまになった。

ふたりの真ん中に熱が籠っていく。

この熱が弾ける時、決着がつく。

その瞬間、母は一歩、その身を退いた。

少しだけ竹刀の頭を下げ、一瞬弛緩したかのような姿勢をとった。

おじさんは吸い込まれるように、母に向かって飛び込み、竹刀を振り下ろした。

「小手ェェェッ‼」

母は、狙いすましたようにおじさんの小手に竹刀を打ちつけ、体を退きながら残心の構えを取った。

勝負ありだった。

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