「ひなまつり、どこの流派?」

八方鈴斗(Rinto)

「ひなまつり、どこの流派?」


 夫の言葉に、私は思わず「え?」と聞き返す。


「だから、ひなまつり。君の実家、特に流派とかなかった?」

「どうだろ。ない、と思うけど」

「何かこだわりなかったら、僕の実家の方の流派でやってもいいかな。この子の初節句だし、略式じゃなくて正式なのをしてあげたくて」

「いいね。きちんとお祝いしてあげよっか」

「よかった。うちの親父も気になってたみたいで」

「お義父さん、が?」

「うん。僕の妹の初節句も正式なやり方だったんだけど。その時の親父ったら、もう凄い力の入れようでさ。そういう祭事には一家言あるんだ」


 おしゃぶりをつけてすやすや眠る愛娘を横目に、私は尋ねる。


「正式なやり方って、どういうの?」

「君のご実家で使ってた雛飾り、残ってる?」

「うん、たぶんあると思う」

「その女雛だけいいんだけど、用意して欲しくて」

「うん? わかった。親に送ってもらう」

「そしたらひなまつりに一番近い新月の夜、窓とカーテンを完全に締め切った部屋を作って」

「うん」

「そこでこの子用の新しい雛飾りを女雛だけ抜いた状態で、北側に向けて飾って」

「うん」

「送ってもらった君のとこの女雛を、その雛壇の空席に乗せるの」

「うん」

「そしたら白装束をきた僕が、君にある文言を三回問いかける」

「……うん?」

「意味を理解しちゃ駄目で、必ず『がへんず』って答えてね」

「……う、うん」

「僕は白酒を注いだ盃を、君の女雛の前に置く」

「……」

「そしたら君は、女雛の前の盃を、三回に分けて口につけて」

「……」

「僕は君の女雛を持ってその胸に針を刺し、塩をふって和紙に包む」

「……」

「新しい方の女雛を正常な位置に乗せて、和紙に包んだ君の女雛を、男雛女雛の前にお供えをしたら、それで完了」


 夫は、なんてことのないような顔をしている。


「……それ、どういう意味の、儀式なの?」

「え? 女の子が幸せに健やかに過ごせますように、っていうやつだけど」

「それは、そうだろうけど……でも、私」

「妹もさ。赤ちゃんの時、肺が弱くて何かと入院してたけど。うちの流派の正式なひなまつりをしてからは、すごい健康体になったんだよね」


 私はひどく気がかりだった。

 夫の母は、病気で早逝しているはずだ。


 それも確か、肺病で。

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「ひなまつり、どこの流派?」 八方鈴斗(Rinto) @rintoh0401

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