愛する者が集う館
天知ハルカ
第1話
アレックスは三流オカルト雑誌記者。
「巷の怪奇屋敷」というコラムを連載中。
PM8:00
いかにも幽霊屋敷のようなぴったりな古い邸宅を見つける。
取材交渉。
名刺を差し出す。
「アレックス・フロッグス」
あえて雑誌名は伏せて「記者」とだけ記載している。
館の主人は快く取材を了承してくれた。
屋敷に入ると長い廊下。
そこにはあたり一面、隙間もないくらいに沢山の写真が飾られていた。
豪勢な額縁。全て若い美しい女性。
アレックス「彼女たちは?」
主人「私の元妻だ」
「最初の妻は不慮の事故で死んだ。
私は長年彼女を失った悲しみから抜け出せず
彼女の面影を探し続けた。
いくら新しい女性を妻に迎えても
私は満足いかなかった。
何人も、何人も
迎えても…」
アレックスはその主人がやや常軌を逸している事に気付いた。
長い白髪の髪、乱れたガウン、
目鼻立ちは整っているもののその眼は大きく見開かれ
必死で彼女たちの肖像を見つめている。
顔も背格好も髪色、年齢、皆違う。
『助けて』
『ここにいては駄目』
ふと声がした。
女性の声だった。
アレックスは自分の耳を疑いつつも
すぐさまこの館から逃げ出したく思った。
館主人は一枚一枚写真を大事そうに見つめ、独り言のように呟く。
「彼女は妻と髪色が一緒だった」
「彼女は輪郭が」
「彼女は手の爪の形が」
「あの、充分取材させて頂きました。僕はこれで…」
アレックスが去ろうとすると同時に彼の手を掴む主人。
払い除けれない。
「私の妻の名前を知ってるかい?」
「え」
「アレックスだ」
主人はにっこり笑った。
[エピローグ]
AM0:00
館主人はまた一つ新しい写真を壁に飾り付けた。
写っているのは三流オカルト雑誌記者の青年、
その顔だった。
周辺住民のコメント
「あの屋敷?」
「住んでる主人が言ってたの」
「愛する者が集う館だって」
おわり
愛する者が集う館 天知ハルカ @amatiharuka
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