ふたりの天使

須藤淳

第1話

 春日未来(みく)は、2歳年上で兄の亮太と、幼馴染で同い年の由香が大好きだった。


 未来は天真爛漫で、子供の頃から変わらず人懐っこい。

 小さな頃から一緒に遊んでくれた兄と、学校でいつも寄り添ってくれる由香が、未来にとっての何よりの宝物だった。


 「ねえ、亮太兄、由香ってすごく可愛いよね!」

 「そう、だな」

 「ねえねえ、由香、亮太兄ってかっこいいと思わない?」

 「……そう、かもね」


 二人をくっつけようとする未来の策略は、ある意味大胆であり、ある意味幼稚だった。けれど、本人は至って真剣だった。


 「だってさ、二人が恋人になったら、もっとずっと一緒にいられるじゃん!」

 未来の無邪気な笑顔に、亮太と由香は困ったように笑顔を返す。


 二人とも恋愛対象として、未来のことが子供の時から好きだった。

 けれど、未来にはその気持ちが伝わらないし、伝えられない。

 むしろ、自分たちを恋人にしようと無邪気に画策する未来の純粋さに、二人は戸惑いながらも心を掻き乱されていた。


 「未来は、ほんと無邪気だよな」

 「何が?」

 「いや、別に」

 亮太は妹の頬を軽くつついた。


 「未来の純粋なところが好きだけど…」

 「どうしたの?」

 「なんでもないよ」

由香もまた、未来の髪を撫でながら微笑む。


 二人の手が交差する。

 そして、目が合い、ひっそりとため息をつく。


 未来にとっての「好き」は、家族愛や友情の延長だった。

 だが、亮太にとっての「好き」は、妹としての枠を超えた愛情であり、由香にとっての「好き」も、親友としてのそれではなかった。


 未来はそんな二人の気持ちに気づかない。それどころか、二人をくっつけようと必死なのだから、皮肉な話だ。


 「困ったな…」

 「ほんとにね…」


 亮太と由香はそれぞれに、報われない自分の思いを押し殺すように顔を伏せた後、ふっと息を吐きお互いの目をしっかりと見つめる。


 「俺たちが未来にとって一番大事な存在であり続けるには……」

 「他の誰にも未来を取らせないこと、だよね」

 こうして、二人は結託した。


 「ところでお前、昨日学校帰りに未来とデートしただろ。手とかつないでないだろな」

 「小学生みたいなこと言わないで。頭沸いてるの? 亮太こそ、未来に近づきすぎ」

 「俺、兄貴だぞ?」

 「てか、亮太のクラスの酒田先輩が、こないだ未来に話しかけてた。排除してよ」

 「まじか。了解」


 二人は互いをけん制し合いながらも、未来の傍を死守するため、お互いに協力する。


 なにやら二人でずっと会話しているのを見て、未来が笑顔になる。

 「えへへ。二人とも仲良しになったね!でも、私も仲間にいれてね?寂しいよー」

 そう言って笑うと、二人はハッとして未来を抱きしめる。


 「当たり前だろ。ずっと一緒だ」

 「亮太くんより、未来と一緒にいるのが楽しいよ」


(てめ。どさくさに何いってんだ。てか、離れろバカ)

(あんたこそ今すぐ離れろ。お呼びじゃないのわかんない?)


と、二人は目だけで会話するが、未来はそんな二人に気づかず、大好きな二人に愛されて幸せだなぁと、今日も天真爛漫に笑っているのだった。

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ふたりの天使 須藤淳 @nyotyutyotye

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