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「申し訳ないじゃなくて、どうしてくれんだって聞いてんだよ!」


「申し訳ございません」




ただ只管頭を下げて謝罪する。

もう頭を下げることに抵抗はなくなった。バイト限定だけど。

何故ならこう言う客は珍しくないからだ。

そしてこの男こそブラックリスト入りのクレーム常習犯だった。




「ちょっと柴ケン、この客どうすんのよ?」




サーヤは小声で耳打ちする。




どうもこうもない。

相手は客なんだから適当に謝っとくしかないだろう。




それに、この後の展開は大体読める。




「椎茸がねぇんだったら他のもんを安くしろよ!」




やっぱりな。


狙いはそっちか。




「それは出来ません。特売品は日によって異なりますので」


「俺は客だぞ!この店は客の言うことが聞けないって言うのか!?」




聞けねぇから言ってんだろうが!




「何コイツ、うっざー」




今度は客に聞こえるように暴言を吐くサーヤ。




「あ?誰がうざいって姉ちゃん?」


「キャー!こっわーい!店員さん助けてー!」




すかさず俺の後ろに隠れるサーヤ。




自分が煽ったくせに勝手に引っ込みやがって。


まあ、男のくせに女に凄むのもどうかと思うけどな。




俺はサーヤをそのままにして適当に遇らおうとしたその時、力強い凛とした声が客の言葉を遮った。




「ガキんちょ!お前じゃ話になんねぇから上を…」


「―――舞茸」




その声は、見吉さんのものだった。

見吉さんは客の後ろからそっと現れて笑顔で対峙する。




「ま、舞茸だぁ?」


「はい。炊き込みご飯でしたら舞茸も相性が良いですよ。私の家では椎茸ではなくあえて舞茸を使っていますし」




あ、そうなんだ。


覚えておこう。




「し、知らねぇよ!うちはいつも椎茸なんだよ!」


「椎茸もいいですが、舞茸には不溶性食物繊維を含んでいるので腸の働きを正常化にしてくれてお通じが良くなるんですよ。また脂肪が体内に吸収されるのを防ぎ、脂肪の分解をサポートする効果のあるキノコキトサンが含まれています」


「だからうちは…っ!」


「他にも生活習慣病の改善や更年期障害の緩和、便秘の解消や月経不順にも期待されています。舞茸は毎日摂取することで腸の働きが良好になったり、脂肪の吸収を抑えるため脂肪摂取量が自然と低下したりと、舞茸に含まれる成分作用が積み重なることでダイエットにも効果的ですよ」


「いや、だから…」


「それでも椎茸に拘るのでしたら、ここから3キロ先のスーパーに椎茸が二袋150円で売ってましたよ。そちらに足を運んでは如何ですか?ここで喚いていても椎茸は出て来ませんから」




見吉さんは客の言葉に一歩も引かない。

それどころか反対に客の勢いを押し殺して言い包めた。




「す、凄い…」




客は見吉さんの言葉にぐうの音も出ない。

その顔は熟れたトマトのように真っ赤で羞恥に耐えていた。




「そ、それを早く言えよ!」




そう言って客は逃げるように店を飛び出した。

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