二本足の魔獣 〜元獣少年は変人だらけのディストピア都市で人間として生きていくようです〜
益井久春
レンレイの目覚め
第1話 『人間』になった日
目を覚ますと、そこは見た事がない灰色の景色だった。
まず最初に違和感を感じたのは、見たことない色があることだった。これまで僕が知っている色は、青と黄色、それから白と黒だけだった。
だけど、目の前に不思議な色がある。目の前で倒れている生き物から、見たことのない色をした液体が流れている。
その代わり、鼻の調子が悪い気もする。微かに血の匂いがするだけで、前よりひどくはない。
とりあえず寝転がるのをやめることにした。後ろ足だけで立てることに驚きながら、僕は自分の前足を見る。……これがかつての僕を殺した生き物か。僕の以前の姿と比べると、その前足は太い。他に突起が5本、細長く伸びている。その先には小さな爪があった。
しばらくして気づいたことだが、僕の体からは体毛がほとんどなくなっている。そして、代わりに僕の体は薄い何かに包まれていた。
邪魔だと思って脱ごうと考え、実際に脱ぎ始めたけど、これを脱いだらあまりにもひんやりした空気が迫ってきて、体が寒くてもたないと本能が訴えだしたので、脱がないことにした。
僕の体をしばらく見回したあと、目の前で死にかけている生き物も調べることにした。
しばらくして、目の前で倒れている生き物が、今の僕と同じ種族の生き物だということに気づいた。それと、この変な色の液体が血だっていうことも。
とりあえずお腹が空いて死にそうなので、この生き物を食べることにした。近づいて彼の首あたりを掴み、噛みつこうとする。しかし、以前より噛む力が弱っていたので食いちぎる事ができなかった。
色々とこの姿、不便だな……。
そう心の底で実感しながら、僕は以前の僕に起きたことを思い出す。
————
僕が以前森にいた頃、僕は森の中で一番強い獣だった。
ただずっと食べたいときに他の生き物を食べて、森の各所を転々として暮らしていた僕は、ある日森に入ってくる見たこともない生き物を見た。
その生き物は二足で歩いていて、こちらを見るなり鋭い何かを出して、僕の方に向かってそれを振り回してきた。
それが当たった僕はたくさん血を吹き出して立っていられなくなった。そしたら気づけば痛いのにどんどん眠くなっていって、しばらくしたら今この体で、この場所で目が覚めていた。
その間のことはよく覚えてないけど、確か『カミサマ』とかいうよくわからないヤツに「僕を傷つけたあの生き物にしてくれ」って叫んだのだけは覚えてる。
そういえば、森に入って僕を傷つけた生き物も、僕や目の前で倒れている生き物と同じ形だった気がする。もしかして、あの『カミサマ』とかいうやつが叶えたのかな?
だとしたら、何者なんだ、『カミサマ』って……
————
それはそれとして、僕が噛みついた、今の僕と同じ種族の生き物が急に暴れ出した。
「おい!俺はまだ生きてるぞ!大体、同じ人肉だったとしても道に転がってるやつじゃなくて、店で売ってあるやつを食えよ!せめて楽に殺してくれ!」
動物として考えるとメチャクチャな鳴き声の集まりでしかないのに、不思議とこの生き物が何を考えて、何を伝えようとしているのかがわかる。
でも、「みせでうってある」ってどういうことなの?僕は訳が分からず、とりあえず同じ手段で自分の考えていることを伝えて返すことにした。
「みせって何?うってあるってどういうこと?」
とりあえずこれでいいのかな?ちょっと不安だったけど、なぜか持ってる知識を振り絞って伝えることにした。
「なんだ、お前そんなことも知らねえのか?変なやつだな。店っていうのはな、いろいろなものが置いてある場所なんだよ。そこに置いてあるもんは金っていう価値がある紙とか金属の塊と交換できんだ!」
どうやら無事に伝わったみたいだ。
「あの……僕その『金』ってやつを持ってないんだけど……。もしかしてお兄さんは持ってるの?」
「持ってるが、取られたくはねぇ。まあ、今の俺は抵抗できねぇだろうが……」
「そっか」
正直こいつが言っていることはよくわからない。だけど、とにかく生きるためにしなければならないことがある、というのはなんとなく理解できる。
そうと決まれば躊躇することはない。僕はそいつの身包みを剥ぐことにした。
しかし、どれが「金」かよくわからない。持っていたものをひたすら奪い取ってあれやこれやとしていると、急に別の存在が近づいてきた。
その存在は背が高くて、同じ種族のようだった。雪のように白い顔や四肢を除くと真っ黒な姿をしている。そして、腰から下の一定のところまでには両足をまとめて包む布が巻き付いている。
そして、肩からは鋭くてキラキラ光る、平たい触手のようなものが飛び出ている。
「やぁやぁ、もしかして困ってるのかい?」
「うん。この人がお金持ってるらしいんだけど、ないと生きていけないらしいんだ」
「うんうん。ちなみに、なんで生きていきたいのかな?」
「生きるのに理由なんてない。生まれたから生きるんだよ。ただ食べ続ける。生き物ってそういうものだよね?それともこの種族は違うの?何かあるの?僕、この種族のこと全然知らなくて……」
僕がそういうと、その人は急に笑い始めた。
「ふふっ、面白いね、君。気に入ったよ。僕の方についていかないかい?色々教えてあげるよ」
「たとえばどんなことを教えてくれるの?」
「そうだね、うーん……。たとえば……」
「人間のこととか」
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