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第23話
「ありがとうございました。」店員は2度目のお辞儀をしている。美紀は初めて店員をじっくりと見た。普段は気に掛けることはない。
―肩位まである髪をポニーテールでまとめており、目がパッチリしている。唇がふっくらとしていて笑顔がとても可愛い感じ。年齢は20歳だろうか。
「間違いない、秀雄の好みだ。」
美紀はそう直感した。名札を見る―朝田―知り合いの中にはいない名前だ。
秀雄はしれっとした顔をしていて照れている様子もないのだが、元々思っていることが顔に出る方でもない。
「あの…。」店員が口を開いた。
「良かったら、皆さんでお食事に行きませんか?ご馳走させてください。」
「え?いや、その…。」秀雄はどうもこういう時にはっきりしない。
「いえ、そんなつもりじゃないですから。」と美紀。
「お礼の気持ちですから。明日の夜はいかがですか?若い方なら…焼肉がいいかしら?」
女性はニッコリと微笑んでいる。
美紀は不覚にも“焼肉”に反応してしまい、断るタイミングを逸してしまった。
次の日、予想通りニュースはクラス中いや、学校中に広まっており、秀雄はインタビューの嵐に遭っていた。
美紀が気になるのは秀雄の回りに女子のファンが増えたことで、一晩でこんなに状況が変わるのかと感心してしまうくらいだ。積極的に秀雄に話し掛ける者、遠巻きに、しかし明らかに目で憧れの光線を出している者、教室の外から強盗犯を撃退した英雄を眺めている者…。
「何なんだろう…。」
美紀は呆れてもいたが、秀雄の関心が誰かに移ってしまわないだろうか という心配と、秀雄に群がる群集には抵抗できないことで、多少苛立っていた。
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