雛人形、いつ片付ける?
青樹空良
雛人形、いつ片付ける?
「あー、たのしいね。このお人形さんたち、ずっとここにあるの? こんど来たときもある?」
ひなまつりのパーティーを楽しんでいる娘は本当に嬉しそうな顔で、七段飾りの立派な雛人形を見ながら言った。私の父が初孫だからと奮発して買ってくれたものだ。ちなみにうちのアパートにはさすがに大きすぎて置けないので実家に置かれている。
そして、今日はその雛人形を前にパーティーまで開いてくれている。
大きくて出すのも大変なのに一生懸命飾った雛人形だから、そう言ってもらえるのはすごく嬉しい。
だけど、
「うーん、でもね。雛人形は一年中飾っておくものじゃないのよ。だから、次に来たときには、もうしまっておかないとね」
「えー」
私の母に言われて、娘はちょっと不満そうだ。
そこに、
「いやいや。ずっと出しておいてもいいだろ。俺は、一年中でも構わんぞ」
「ほんとう!?」
父が口を出してきて、娘は目をキラキラと輝かせた。
「ちょっとちょっとお父さん。そんな一年中飾ってどうするの。ちゃんと片付けなくちゃ。それに……」
母がじっと父を見る。
「この子が子どもの頃は邪魔だから早く片付けろとか言ってたでしょ。なんなの、急に」
「む……」
母が言っているのは私の小さい頃のことだ。確かに、私のこれより小さいお雛様でさえ、場所を取るからとか、季節感がないとか言われてすぐに片付けていた。ちなみに、大きな段飾りの横に私のお雛様もちゃっかり飾られている。
「……それ、は」
父が急に下を向き出す。
「お義父さん、大丈夫ですか?」
一緒にパーティーに参加してくれていた私の夫が、心配そうに声を掛けたときだった。
父は、キッと私の夫を睨んだ。
「どうしたもこうしたも、お前のせいだろー!」
「え! え!?」
おろおろする夫に父は詰め寄る。
「お前が大事な娘と結婚なんかしたりするからいけないんだ! 大学を卒業してすぐとか早すぎるだろ! さっさと片付けたら孫まですぐに嫁に行くかもしれないじゃないか!」
「……あ」
「お前の大事な娘も雛人形をさっさと片付けたら、すぐに嫁に行くかもしれないんだぞ。……俺がっ! 邪魔だからなんて言って、雛人形をすぐに片付けたから! ずっと出しっぱなしにしていれば娘は……、娘は……っ、こんなにすぐに嫁に行って家を出て行くこともなかったのに……っ! 俺のせいで!」
「はいはい、お父さんそこまでー」
床にうずくまって泣き出しそうになっている父の肩を母がぽんぽんと叩く。
「確かに、雛人形はすぐに片付けないと嫁に行き遅れるとか言われてるけど、そんなの迷信でしょ。この子が早く結婚したのは、いい人が早く見つかっただけの話。それに、孫が出来て可愛い可愛いって言ってるのは誰なの? こんなに豪華な雛人形まで買って」
「う、そ、それは……」
母の言葉に父がたじろぐ。
「すみませんっ!」
「いいのいいの。私は娘が幸せそうで、可愛い孫がいてくれるだけで幸せだから」
夫が頭を下げて、母がにこにこと答える。
「私はそんな迷信信じてないけど、一年中飾っているよりたまに出した方がなんだか特別感があって楽しいじゃない? 出してあっても年がら年中ひなまつりのパーティーが出来るわけじゃないんだから、ね。そうねぇ、わかりやすく言えば……、クリスマスみたいなものなの。サンタさんだって毎日来てくれるわけじゃないでしょ? ひなまつりもそれと同じなの。また来年になったらお祝いしましょ」
そう言って、母は娘に向かって微笑んだ。
「そっかあ。サンタさんも、いつも来てくれるわけじゃないもんね」
クリスマスと同じと説明されて、娘も納得したようだ。
「じゃあ、お片付けしたほうがいいのかなぁ」
そう言って、雛人形を名残惜しそうに見ている。
「ぐぬぬ」
父は納得した様子の娘を見て、悔しそうに唇を噛んでいる。
だけど、
「ねぇ、おじいちゃん。わたしもいっしょに片付ける!」
「そ、そうか。そうだな」
娘に満面の笑顔で言われると、父は顔をとろけさせて頷いたのだった。
雛人形、いつ片付ける? 青樹空良 @aoki-akira
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