そふる 🐬

上月くるを

そふる 🐬



黄水仙ほどにきよらなひとなれば

弓道場にシャッター降りて春疾風


地に影を置きて白鳥帰りゆく

さみどりと薄べに色の村の春


点描のごとき青空リラの花

野遊や下り電車を遠く見て


うはうはと腹出す犬や春の土

香しき風吹き過ぎる穀雨あと


とつぜんに青き湖面や春の霧

しあはせが通過したあと霞草


チェロに添ふる青年の指スヰトピー

はいとくの文字をわすれて木蜜とり


こでまりや離れの叔母は女学生

陽炎やベンチひとつに影ふたつ


奥座敷の北窓開き卓を出す

足踏のオルガン鳴らす春休


仲春や窓のプーさん日を浴びて

顔中で笑ふ少女やチューリップ


天井のなき監獄の春三日月

人の世の少しと多分春月夜




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