妹が生まれてからひな祭りに興味を持つようになった

梅竹松

第1話 妹が健やかに育ちますように

 今までオレはひな祭りという行事に興味がなかった。

 ひな祭り自体は知っているものの、具体的にどのような行事なのかまではわからない。

 興味を持てなかった理由は非常に単純で、姉も妹もいなかったからだ。


 オレはごく平凡な家庭に長男として生まれた。

 だけどそれ以降、我が家には子どもが生まれず一人っ子の状態で10年ほど育てられた。

 だから女の子のお祭りであるひな祭りの日になっても特にお祝いをすることはなく、両親も雛人形を買おうとはしなかったのだ。


 もちろんそのことに不満を感じたことは一度もない。

 家でひな祭りの話をする機会はほとんどなかったし、学校でも男子同士でひな祭りについて語り合うなんてことはしなかったから、興味を持つきっかけ自体がなかったのだ。

 そういうわけで、ひな祭りは自分には縁のないイベントだと思っていた。


 だけど、小学校高学年になる頃に妹が誕生したことで、ひな祭りは我が家でも一大イベントとなった。

 女の子が生まれたために、両親が急にひな祭りに興味を持つようになったのだ。


 専門店で本格的な雛人形を購入し、3月3日にはそれを雛壇に飾ったり、ひなあられやちらし寿司などを食べたりして娘の健やかな成長を願う。

 今までは何でもない日だったのに、娘が生まれてからは一年の中でも特に大事な日に変わってしまっていた。


 そうなってくると、オレもさすがにひな祭りに少しだけ興味が湧いてくる。

 雛壇に飾られている雛人形や道具などをよく観察するようになったし、人形の名前もいつの間にか覚えていた。それまでは、雛人形といえばお内裏様とお雛様くらいしか知らなかったのだ。

 それ以外で知っていることといえば、せいぜい立派な着物を身に纏った人形やぼんぼりなどの小物が飾られていることくらい。


 だが、我が家に雛人形が飾られるようになって知識が増えるとともに、同じ種類の人形でも違いがあることに気がついた。


 たとえば三人官女はみな異なる物を持っているし、五人囃子もそれぞれ違う楽器を手にしている。

 また、随身の持つ弓や矢は近くで見ると迫力を感じるほど精巧に作られており、三人いる仕丁は表情や顔の色がわずかに異なっている。

 もちろんお内裏様やお雛様も非常に美しい。

 さらに飾られている道具も細部までこだわって作られており、お内裏様とお雛様の後ろにある金色の屏風や雛壇に敷かれている真っ赤な毛氈が人形や道具を目立たせている。

 まさにひとつの芸術作品と言っても過言ではないような気がした。 


 そんなふうにひな祭りや雛人形に興味を持つようになったのも妹が誕生してくれたおかげだろう。

 もしも妹が生まれなければ、オレは一生ひな祭りなんて自分には無縁のイベントだと思っていたかもしれない。


 だけど、こうしてこのイベントに興味を持ち、知識が増えたことで少しだけ人生が豊かになったような気がする。

 知識の豊富さと人生の豊かさはもしかしたら比例するのかもしれない。いつの間にかそう思うようになっていた。


 そのことに気づかせてくれた妹に感謝しつつ、オレは今年もひな祭りの日には大事な妹の健康や幸福を祈る。


 今やひな祭りは男子のオレにとっても非常に重要な行事となっていた。


 

 

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