記憶リメイク
ちびまるフォイ
最悪にして最高の記憶
「昔はよかった……」
高校に入ってからというもの孤独を極めている。
中学の頃はまだ友達が1人いたが、今はゼロ。
「新学期早々にカッコつけて、
グロい写真なんか見せこなきゃよかった」
他の男子とは一線を引くキャラ付けをするため
学校にあえて戦争やらグロい写真をこれみよがしに見ていた。
中学じゃこれで注目を得られた。
高校じゃむしろ避けられて今や誰も近づかない。
トラウマになり、毎晩思い出しては死にたくなる。
学校を終えた帰り道。
ガラスに映る自分を見た。
「せめて外側からイメチェンしてみるか……」
見た目の変化で声かけてもらえるかもしれない。
近くの美容室に飛び込みで入った。
「いらっしゃいませ。バーバー・メモリーへようこそ」
「印象を変えたくて……。短くしてもらえませんか?」
「なにを?」
「髪を」
「お客様、うちは美容室じゃないですよ。記憶リメイク店です」
「……は?」
「現在のお客様をイメチェンできませんが、
昔のお客様の記憶をイメチェンは可能です」
「ぜんぜんわからない!」
「昔の悪い記憶や、思い出したくない過去は誰にでもあります。
それをリメイクして、良い印象の記憶に変えるんです」
「そんなことしてなんの意味が……?」
「人間ってのは過去によって人格形成されるんですよ」
すでに店にも入って椅子にも座っている。
流れで記憶のリメイクをお願いした。
数分で作業は終わる。
「リメイク完了です。どうですか?」
「す、すごい……。心が軽くなった気がします」
「あなたの高校初日の大失敗も良い記憶になったでしょう?」
「大人気の記憶になってます!」
店員の言葉通りで、人は思っている以上に過去に足を引っ張られていた。
過去の失敗の記憶はリメイクにより、大成功の記憶になる。
頭の片隅にいつもあった気まずさや恥ずかしさ。
それらが解消されて一気にポジティブになる。
「ああ、明日の学校が楽しみだ!!」
翌日の学校からは一転してポジティブな自分になった。
その変化にクラスメートは戸惑っていたがすぐに慣れる。
記憶リメイク前の悪い記憶もしだいに薄れ、
もはや何をリメイクしたのかわからない。
その後も記憶リメイク店には足しげく通った。
「体育祭でドジしたんです。リメイクお願いします」
「大成功の記憶に作り変えますよ」
「弁論大会で思いっきり噛んじゃって……」
「拍手喝采にリメイクしますね」
「好きな子にフラれたんです!」
「本当は両思いということにリメイクしましょう」
通えば通うほど、リメイクしたくなる記憶が増えた。
悪い記憶というものが頭にひとつでもあると、
それに引っ張られて楽しいことも楽しくなくなる。
嫌な出来事がおきたなら、すぐに記憶リメイクをし続けた。
自分の記憶はいつもハッピーで幸せなものだけありたい。
記憶リメイクを続けていたある日のこと。
「お願いです! 僕と付き合ってください!!」
「え……これで10回目……無理なんですけど」
「なんで!?」
「2回目くらいに理由いったよね?
私べつにあなたのこと好きじゃないって」
「そんなの知らない! 君が言ったのは
本当は好きだけど今は勉強で忙しいから……だろう!?」
「そんなこと言ってない!
なんで勝手に自分の中で美化してるのよ!」
「これも記憶リメイクしなくちゃ……」
ふたたびフラれてしまった。
記憶リメイクを続けていると現実とのギャップも起きがち。
フラれてしまった悪い記憶はさっさとリメイクし、
良い記憶にしないと今の自分のポジティブさが失われる。
店を訪れると看板がかけられていた。
「り、臨時休業!?」
看板にはCloseの文字。急に焦り始める。
「どうしよう。記憶リメイクできないと……。
この悪い記憶をキープしなきゃいけないのか?」
臭いものを常に持ち続けなければならないような恐怖。
記憶リメイクにより心のタフネスが無い自分には耐えられない。
「他の店がないか探さなくちゃ!!」
アプリのマップで近そうな記憶の店を探した。
近くにはなかったので電車とバスを乗り継ぎ店を訪れる。
「らっしゃい」
「お願いです! 記憶を書き換えてください!」
「あいよ。はじめますね」
無愛想な店員により記憶加工がほどこされる。
処置が終わると、めちゃめちゃ記憶が沈んだ。
「なんだ……すごく恥ずかしいし気落ちする……。
記憶リメイクしたはずなのになんで……?」
「記憶リメイク? お客さん、何と勘違いを?」
「え? この店は記憶リメイクする場所でしょ?」
「ちがうよ。うちは記憶リマスター。
過去の記憶をより鮮明かつ鮮烈にする店だ」
「なんでそんな傷口に塩を塗るようなことを!!」
「過去の学びを鮮明にして生きたい人や、
初心を忘れたくない人には需要あるんだよ・
あんた、なにと勘違いしたの?」
「最悪だ……」
フラれた記憶はより鮮明に刻まれる。
失敗を振り返って学びにするのなら良いかもしれないが。
そもそも体の中に悪い記憶を入れたくない。
ましてそれがリマスターされたならなおさら不要。
「近くに記憶リメイク店はないんですか!?」
「無いね」
「このリマスターされた悪しき記憶を捨てられないんですか!!」
「知らんよそんなことは。それに悪い記憶ほど
リメイクされたときに良い記憶になるんだから感謝してもらいたいね」
「そうなんですか!?」
「記憶リメイクなんてマイナスをプラスにするだけだから」
その言葉を受けるなり電車とバスを乗り継ぎ、ふたたび地元に戻った。
記憶リメイク店でレジャーシートを引いて寝ずの番をする。
店主が臨時休業から戻ってくると、出待ちしていた客に驚く。
「わっ! お客さん、ここで何を!?」
「見ての……とおりですよ……。
記憶リメイクをしてほしくて……待ってたんです……」
「とにかく中へ!」
店の中に通される。
「お客さん、ひどい顔ですよ。
いったい何があったんですか」
「それよりも聞かせてください。
悪い記憶ほどリメイクしたとき良い記憶になるんです?」
「え、ええ……そうですね。
良くも悪くも、悪い記憶は心に刻まれます。
それが良いものに転じるので、より良い記憶になります」
「ああ。それはよかった……がんばったかいがあります」
「そんなに嫌なことがあったんですか?」
「ええ、悪い記憶を準備してきました。
リマスターもしたので、今は非常に辛いです」
「記憶見てますね……これですか?
この10回目フラれたリマスター後の記憶です?」
「それもあるんですが、もっと強いのがあるはずです。
もっと直近の記憶を見てください」
「えっと……」
店員は記憶を探って見つけた。見つけてしまった。
ひどくやつれていた理由にも納得してしまった。
「お客さん……あなた、なんてことを……」
「はやく記憶リメイクしてください。
かけがえのない親友をこの手にかけた悪い記憶。
きっと想像できないほど良い記憶になるでしょう?」
記憶リメイク ちびまるフォイ @firestorage
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