第22話 研磨

ご飯を食べ終えて胃も満たされたところで、私は風呂に入ることにした。


「お母さーん、先風呂入るねー」


「わかったー、あちょっと待って!」


「どしたの?」


「いや、シャンプーの詰め替え置いてあるからやっといてって言いたかったの」


「りょうかーい」


いつものように軽い会話を交わす。

お母さんはちょっと抜けているところもあるけど、母親としてやるべきことを一切欠かしたことがない。

どんなに忙しくたって私のことを一番に考えてくれる。もしも私の母親がこの人じゃなかったら、私はもっと不幸のどん底にいただろうし、すでに死んでいたかもしれない。

お母さんの過去は詳しくは知らないけど、不幸せにはしたくないなって思っている。


「🎵〜」


鼻歌まじりに髪の毛を洗い始める。

恵さんみたいに長い髪の毛ではないけど、私も女の子だし、何より恵さんに綺麗と思って欲しいからいつも丁寧にやっている。

髪が洗い終わったら次は体。

体が終わったら次は顔を洗って、二十分ほど経った頃に私のお風呂は終わった。

髪を乾かしているといつもより甘い香りがして、なんでかななんて思ってたらそうだ。お母さんが買ってくれた新しいシャンプーのおかげだと気づく。

新しいシャンプーに満足した私は、いつもより良い気分で私の部屋に向かった。


「どう、新しいシャンプー」


リビングを通る時、私の機嫌がよっぽど良かったのかお母さんが私に聞いてきた。


「うん、すっごく良い香りだった。けどこれ高かったんじゃないの?」


「最近詩織が楽しそうで、お母さんつい買っちゃった。気に入ってくれたみたいで良かった」


「ありがと、おかーさん!」


母の笑顔に見送られながら私は自分の部屋へと戻っていった。

その歩幅はいつもより広くて、階段を登る時の足取りもいつもより軽い。



さて、寝る前の準備も全て終わって今の時間は八時ぐらい。

いつもはこの後ゲームをしたり小説を読んだり、もしくはゲームなんかをして時間を潰して十二時頃には就寝に着くが、今日はまだやることがある。

恵さんを救うことは決定事項だけど、

私はまだ学生で、社会的地位も低い。

もちろん被害者なんだったら私の立場は優位になるが今回は恵さんの問題だ。

だから私はしっかりと計画を練らなくてはいけない。失敗して、恵さんを救えないなんて状況になんて絶対なってやるもんか。

だから私は情報を集める。

過去のDVに対する対処や裁判、集めれる情報はなんでも集めた。

例えば本、これは近くにある図書館で見つけたもの、例えば新聞、過去の事件例は今のために役に立つ。事件の被害者と恵さんを重ねてしまって非常に辛い気分になることもあるけど、それが私の決意をより一層固めさせる。

情報を集める上でインターネットも役にたった。

世界は広大なもので、私が知らないようなことがたくさん載っている。

例えばDV経験者のリアルな体験談やどう対処したのか、とか。もちろん個人が出しているものなので嘘も混じっているかもしれないから集める時は慎重に。

日を重ねるごとに少しずつ少しずつ私の準備が整っていく。

ナイフを研磨するように、わたしの持つ刃を鋭くしていく。確実に仕留められるように、絶対に逃さないために。

だから安心してね恵さん、私が絶対絶対絶対に救ってみせるから!


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