第60話

「その女から離れて頂けませんか」


 聞き覚えるある声にゆっくりと俯いていた顔を上げると、目の前にはシバ社長の姿。

 相当怒っているのか睨むように目を細め、低く冷たい声で言う。


「それ以上彼女に手を出すのは、いくら金我様でも許す事は出来ません」


と―――


「柴永社長。私だとわかっていながらそんな態度を取るとは。この娘にそこまでの価値があるとは到底思えないのだが?」


 イトカを見下しながらも触る手は止めようとせず、それどころか太い指に髪を絡める。


「まぁ……この身体くらいなら少しの値打ちはありそうだがな」


 人身売買を思わせる発言で誹謗し、まわりからは笑い声が聞こえてくる。


 イトカは恥辱に耐えるしかなかった。


 そんな中、痺れを切らした社長も黙ってはいない。


「では彼女が私の”婚約者”だとしても、まだそんな事が言えますか?」


 社長の言葉にイトカは目を見開いた。


 今確かに”婚約者”だとハッキリ聞こえたから。


「婚約者……だと? そんな話は聞いてないぞ」


 金我の態度が変わった。

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