第8話

10分の遅刻も、

椅子を引いたまま店を出ようとするのも、

メモ紙をすぐなくすのも。

私とは違うけれど、

違うことはそんなに問題ではないと今は思える。


10分遅れても今日がなくなるわけではない。

10分遅れても会えないわけではない。

ちゃんと会いに来てくれる。

椅子はさりげなく私が直せば良い。

そのお店を一生懸命リサーチして探してくれたのは友だちの多いフユキ。


がさつと呼べばネガティブな印象になる性格も

大らかで素直だと言えばポジティブに感じる。

私はフユキのどこを見ているのだろう。

どこを見て評価しているのだろうか。


長く一緒にいるからこそ分かる事だった。

そしてそれと同じくらい、

ひとり暮らしでひとりの時間が長くなればなるほど、

私はどうしてフユキと一緒にいるんだろうと考えるようになった。


答えが欲しいわけではなく、

自分の気持ちを少し遠くから見て考えるのは

実家暮らしの家族の中では少し難しかった。


私が私になることで、フユキはもっとフユキになる。

その事が分かるには、ひとりの時間が必要だった。


長い時間の御影で大切だと思う気持ちはある。

変えられない過去は愛おしい。

それとは別のところで、なにかがぼんやりとして少しモヤモヤしていた。

好きなのか嫌いなのかという簡単な割り切った気持ちではなく。

私の恋とはなんだろうと。冷静に恋を観察していた。

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