女の子の日

天西 照実

女の子の日


 女の子の日。

 そんな風に言われる、雛祭りが僕は嫌いだった。

 5月5日は子どもの日で、男女関係なく子どものお祝いだ。

 五月人形は男の子のものとはいえ。男の子の日は無いじゃないか、なんてひがんだりしていた。

 だけど、迎えに来てくれたお姉さんが、その年の雛祭りの日に教えてくれた。


『……男の子は優先されるのが前提、当たり前だったの。だから、二の次になる女の子だけど、それでも災いは除けられたら良いよねって。幸せを願う事だけはしておこうねって。私の頃は、そんな風に教えられてたの』


 理由は、ずーっと昔にあったのかって。すごく納得してしまった。

『私の周りで、そんな風に言われていただけなんだけどね』

 と、お姉さんは言っていたけれど。


 クラスの女子が、うちの雛人形はお祖母ちゃんのお祖母ちゃんの、そのまたお祖母ちゃんの頃から大切にされてる由緒正しい物だって話していたのを覚えている。

 そんな昔から、同じように雛祭りは祝われてきたのだろう。


 昔と今が同じって事に僕が不思議がっていると、お姉さんは、

『時代が新しくなっても、現状や事実が進化していないなら「そうあるべき」なんて理由で願い事の方を捻じ曲げていいものではないのよ。願いと象徴は違うのだから』

 と、話してくれた。そして、

『真っ当な人間の、真っ当な願いの話だけどね』

 と、言って、少し困った顔をしていた。



 お姉さんは、言いにくそうな顔で話していた。

 後からよく考えて、あの時にお姉さんが言いにくそうだった理由がわかった。

 妹ではなく、男の子である僕が大切にされず、風邪を放置されて死んだからだ。

 妹は可愛い。一緒に遊べて楽しかった。

 親にとっては、妹の見た目が可愛いらしい。

 妹の写真を撮っては、可愛い可愛いと言っている。

 妹が大切にされるならそれでいい。

 雛祭りなんか関係なしに。

 だけど、僕を迎えに来てくれたお姉さんは、

『子どもの内は、みんな可愛い。成長すると顔も大人になっていくし、親が可愛くないと思うようになる事は多い。親自身を含めて誰でも通る成長っていうものでも、理解できない人は存在する』

 と、教えてくれた。


 妹の幸せは、僕が願う。

 成長する妹の災いがない姿に安心できるまで、僕は逝けないのだ。

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女の子の日 天西 照実 @amanishi

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