桜の花びら

村添たばさ

第1話

ふわり、と目の前に花びらが舞った。



それに気付いた私は、何気なくそれを手で掴んでみた。






掴めないだろう、その思いとは裏腹に、意外にも簡単にその花びらは自分の手の中に滑り込んだ。






…何気なく掴んでみたはいいものの、これをどう活用したら良いのだろうか。








ーーー少しの間、その花びらと共に歩いた。


私にとってはとても短い時間。



それをこの花びらはどの程度の時間だと思うのだろうか。




本当ならばすぐに地面へとついてしまう、

それと比較すると、この花びらは既に3倍ほどの時間、地につかずに私と共に歩いている。









ふと思い立ち、私は手を開いた。

サッと吹いた風に花びらがさらわれ、私の手にはもう何も残らない。


何故か何かを納得し、一歩前へと進んだ。











「   」

名前を呼ばれた気がして振り返る。

その目線の先には、よく知った友人が手をふっていた。





「何してたの?」


「向こうの公園でとった花びら、逃がしてやったの」


そう、花びらがとんでいった方向をぼーっと見つめながら答えたら、友人は大袈裟に甲高い声で、えー!と叫ぶ。





どうしたの、とうざったそうな声で聞いてやると、





「桜の花びらを地面に落ちる前に掴めたら幸せになれるんだよ!!」





ずっと持ってなきゃダメなのに、と自分のことでもないのに残念そうにしている友人。



少し経つと、よし!と言って走り出した。





何度か宙を掴むような動作を繰り返す。

あぁ、頑張ってるな…とそれを眺める。








しばらく経つと、友人が得意気な顔をして戻ってきた。


苦労はしたけれど、どうにか花びらを掴めたらしい。




嬉しそうな友人を見て、少しだけ悔しくなった。













私が手放したものは、どうやらとても大事なものだったらしい。


その後、どんなに手を伸ばしてみても、花びらを掴むことは二度と出来なかった。









END

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桜の花びら 村添たばさ @tama_3922

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