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「すると、犯人は絞られてくるのではないでしょうか。ナイフの製造元だけでなく、小売店、当時ナイフを買った人間を徹底的に当たってみることも必要ですな。これは推測ですがね、本件の凶器がミクロハンズ社のものであれば、犯人は草津正敏殺害に恨みを持っている者、つまり身内か、あるいは当時、二十年前の男性会社員殺害事件に関連のある人物であるという可能性が高くなります」
お偉方が、神妙な顔つきで見ている。有馬は表情一つ変えずに米倉の話を聞いていた。
米倉は眼鏡の中央を中指で支えた。彼と同年代の刑事が即座に挙手をする。当時の事件を知っている捜査員だろう。
「はい」
日比谷課長が発言を許す。
「その事件との関係は薄くありませんか。被害者男性の身内と、本事件の被害者である女子会社員との関連性は今のところなにも見当たりません。二十年前と言ったら、彼女達はまだ五歳くらいの子供だ」
「当時の事件と関係はなくとも、本事件での被害者の刺創から考えたら、その会社のナイフを使用しているかもしれません。国内でミクロハンズ社のナイフを所有している人間は限られてくると思います。それに」
米倉は咳払いをして言った。
「あの時も、靴の裏が他者のメーカーにすりかえられていたのですよ。しかも犯人全員の」
あっ、という声がどこからか聞こえてきた。米倉は振り返り、一秒にも満たない一瞬、渡を見てきた。
「犯人は多分、当時の事件に詳しい者でしょう。通り魔事件の犯人が彼の身内であるなら、会社員という肩書きを持った女性に恨みを持った者ではないかと考えることもできます。ああ、これは相棒が言っていたことですがね。とにかく凶器の徹底調査をお願いします」
早口で言って着席すると、質問をした刑事は黙り込んだ。
人を見たら骨の髄まで疑え、どんなに関係のなさそうな人間でも疑え。
警察の中では未だ、暗黙の了解でそうした古臭い教訓が残っている。だんまりを決めた刑事は、納得したように軽く頷いた。
米倉はもう一度渡を振り返った。
憶測が推測に変わった。こういうことだったのか。
渡は目を細め、かすかに笑った。
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