クラス一の美少女をガン見してたら別の美少女にバレて変顔をしろと脅された話。
レンチン卵爆心地
第1話
ついに僕にも青春が来た。高校一年生最後の席替えで、密かにクラスで一番可愛いと男子内で絶賛されている
授業中、窓の外を眺める
「ジロジロ見ないでよキモいんだけれど」
先生の話も板書もそっちのけで一限目から六限目までガン見していたら席替えの翌日にバレた。それも
いや、実は目の端で萩原さんも眺めていた。萩原さんも密かに男子の間で人気なのだ。いつも冷静で無表情、氷のようでガラスみたいに透き通った声が美しい、近寄り
「って、流石に
「…………」
ショートボブの……。ドSなお姉さん系なのさ……。
こんな女子のレベルが高いクラスとそろそろお別れと思うと本当に惜しいが、僕はお昼休みに入った途端いきなり萩原さんに呼び出されもしや
向かい合っている萩原さんは壁に
「取引しない?」
「えっ?」
「困ってるでしょ?」
「いやあの、困ってるって言うか、困らされてるって言うか……」
萩原さんはマネキンのように固定された無表情のまま、頭を軽く左へ傾ける。
「あなたの煩悩にでしょ? 他の人にバレる前に隠蔽したいでしょうから、それを手伝ってもいいわよと持ち掛けているのだけれど。もしかしてあなた、今を私を責めた? いい度胸ね。私は毎週水曜日のお昼休みに番組を持っている放送部員よ。そして水曜日は明日。番組内であなたの行いを学年と所属クラスと名前を付けて話したら、公開処刑とはどういうものだったのか世界史の勉強の足しになるでしょうね」
「助けて下さい萩原さん僕今とっても困ってるんです僕の煩悩に!」
土下座した。
「あら可哀相。助けてあげるわ」
間髪入れず受け入れられたのでそれはそれで驚き顔を上げると(あとさらっと済ませるには傲慢過ぎる内容だったのもあって)、萩原さんはブレザーのポケットからスマホを取り出していた。
な、何を要求されるんだろう……。放送部だから、部室の掃除とか、雑用とか? いやでもそれはそれで、
「今から撮るから変顔してくれない?」
「へっ?」
萩原さんはスマホから目を離さない。
「全部バラバラの表情で十二回。いえ、十五回ね。はい、三、二、一」
「えっ、えぇっ!?」
まだ立ち上がれてもいない上突拍子も無い要求にどうにも出来ず、両手をわたわた動かしていると向けられていた萩原さんのスマホがパシャリと鳴る。
僕と萩原さんの間に、居心地の悪い静寂が横たわった。
そのまま三秒はじっとしていた萩原さんは、僕に向けっ放しのスマホの脇から顔を出す。変わらず固定されたような無表情。
「〝へ〟だの〝え〟だの曖昧な受け答えで知性が煩悩に食われてるのは十二分に分かってるけれど
僕はバネのように勢いよく跳び上がった。
「やりますやらせて下さいお願いします僕に十五種類の変顔をさせて撮影して下さい萩原様!!!」
萩原さんは顔の位置を戻す。
「誠意は口先では無く行動で示しなさい。三、二、一」
それは人生で最も表情筋を使った時間だった。
半泣きになっていた気がするが、止まったら最後と分かっていた。己がいかに愚かな人間であるかという事も。
この時の記憶は余り無い。今はもう春休みだから。
萩原さんはどうしてあんな要求をしたのだろう。あの十五枚の写真はどうなったのだろう。尋ねる度胸は無い。あれから僕は萩原さんにビビり散らかし、目が合う度にチビりかけているのだから。
早く二年生になって忘れたい。クラス替えで萩原さんと離れて、人生をやり直すんだ。もしまた一緒になったら死ぬ。
でも約束通り萩原さん、最後まで
あと、ビビり散らかして全く出来なかったけれど、ガン見してた事絶対謝った方がよかったよな……。嫌な思いさせたから、怒らせたんだし。新年度が始まったら謝りに行く? いやでも萩原さんめっちゃ怖いし……。もう水に流してくれてるっぽいし……。
自室のベッドでゴロゴロ転がりながら唸っていると、スマホが鳴った。SMSが届いた通知。えぇ……。詐欺っぽい。
ほっとこうかなとスマホを放しかけたが、通知バーが前半だけ見せているSMSの文面に、「久し振り。萩原です。」の文字が。
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