ぼくたちはしあわせになりたかった
鶴花みやぎ
ぼくたちはしあわせになりたかった
霧雨アスカ、星野ユウキ、ぼくは真っ黒な空間に閉じ込められていた。
もう、どれくらいここにいるだろう。
おなかも減らない。疲れることもない。
時間が止まっている、と気が付いたのはここにきてすぐだ。
なんでぼくたちがこんな目にあっているんだろう。
この時間は永遠だ。きっと。
最近は、ぼく以外の二人とも話していない。
二人はぼくの近くにいるのかな。それすらもわからない。
足音が聞こえるから近くにいるだろう。きっと。
話す気力もない。
お父さんは元気かな。お母さんは元気かな。
きっとこの時間は元の世界ではあってないようなものなんだろう。
気が付いてくれない。誰も。
この時間に気が付いてくれる人はいない。ここにいるぼくたち以外には。
「ねえ、■■。なにしてるの?」
アスカの声。久しぶりに聞くなあ。
でも、なんだか疲れているような声色だ。
まあ、疲れもするよね。ぼくはできるだけ明るい声を出した。
「なにもしてないよ!」
アスカは舌打ちをした。
何か気に食わなかったのかな。
なんでいつも通りで、何もしないでいられるのよ、と、ぼくに文句を言った。
そんなこと言われてもなあ。
「何をしてもむだだって、前も言ったよ。アスカが、自分で」
アスカは寝っ転がっている僕の体を踏む。よわよわしく。
「わたしにはお母さんもお父さんもいて、幸せだったの…」
ふうん。よくわからないなあ、アスカって。
「ねえ、ユウキ。いる?」
ぼくは正直ダメもとで言ってみた。何も見えないっていうのは不安だなあ。
それにユウキは自由人だから、いつもいないことが多い。いないとアスカはいらいらして、ぼくのことを殴ったり、けったりする。
でも、アスカにぼくのことは見えない。もちろんぼくもアスカのことは見えない。
アスカは耳がいいのかな。だからぼくを見つけられるのかな、うらやましいなあ。
「いる」
いた。
めずらしいなあ。
「ぼくたち、どうなるのかなあ」
返事は期待していない。
どうせ大した返事は来ない。
「なるようになる」
適当な返事。
だけど確かにそうかもしれないな、と思う。
なるようになる。
止まっているこの時間はきっと、再び動き出すことはない、と思う。
でも、もしかしたらあるかもしれない。
取り残された、孤独なこの時間がもう一度動き出すかもしれない。
期待を込めて、眼を閉じる。眠気がやってくる。
ぼくたちは変われない。
ただただ、呼吸を続けるだけ。
きっと、目を覚ましても何も変わらないだろう。
だけど、ぼくたちはしあわせになりたかった。
しあわせをまた、手に入れたかった。
一回手に入れたしあわせは、どうして、こうもいとおしいのだろう。
でも、いま、ぼくがほしいしあわせは――
元の世界で、「ぜんぶまぼろしだった」といって、笑いあえるようなしあわせだ。
ぼくたちはしあわせになりたかった 鶴花みやぎ @yuikoro777
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