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第26話
「博士。それ、本気で言ってんですか……?」
「仕方ないわ。父様と取引する時点で、見返りを要求されることは予想できてたもの」
父親との面会の後、楓のアパートに戻って来た。
そこで詳細を聞かされた小野寺は、ずぶ濡れのまま怒鳴っていた。
「あんた、俺に嘘つけって言うんですか!?」
「そうよ!! 何を訊かれても知らぬ存ぜぬで通しなさい!!」
「……………ッ!」
いつになく強い口調で楓に押しきられ、絶句した。
そのやりとりを、葵は少し離れたところで黙って見ていた。
楓の父、厳蔵との面会は難なく実現できた。
娘の口から事情を知らされても、葵の戸籍を用意すると約束してくれた。
ただし、それは楓が父親が出した条件を呑めば了承するという話だった。
葵という新たな種族を作った以上、遅かれ早かれ誰かに嗅ぎつかれる。
同じ研究所の人間なら口を封じるは容易いと判断したのだろう。
そして、今まで奔放に生きてきた娘を言いなりにする口実を作った。
楓に課した条件は、2つ。
それを彼女は受け入れた。
研究所を辞めること。
葵と共に日本を離れること。
横暴とも思える条件だが、葵の正体を隠しきるためには必要だった。
彼を人間だと信じ込ませ、手の届かないところへ逃げる。
それには、小野寺の協力が必要だった。
全ては楓の一存で起こした騒動だと思わせるために…
小野寺は端正な顔をくしゃくしゃに歪めた。
「なにを勝手な……博士と葵だけじゃ海外でなんか生きていけませんよ。掃除も家事もできないくせに。2、3日で確実に腐海の森が発生しますよ」
「そうならないよう、頑張ってみるわ」
楓がコツンと小野寺に額を合わせる。
「小野寺……あなたは私が何をしても、怒りながら面倒見てくれたわよね。ずっと、甘えっぱなしてごめんなさい。でも、これが最後のわがままだから」
小野寺は顔を伏せた。
落とした肩を楓が強く抱きしめる。
「今まで、ありがとう。あなたのこと忘れないわ」
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