【KAC2025】埃をかぶった おひなさま
戸田 猫丸
埃をかぶった おひなさま
「ほら、ゆうくん。きれいにかざれた。見てみー?」
おばあちゃんが言う。
5歳のぼくは、お父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃん、
親戚のおじちゃんおばちゃん、従姉妹のお姉ちゃんたちに囲まれながら、
お雛様の飾られた、真っ赤な壇を見ていた。
「ほら、ごにんばやし。楽しそうやねー」
今にも笛や太鼓の音が聴こえてきそう。
「見てみぃ、その上にいるのは、さんにんかんじょ」
綺麗で小さな、お姉さんたちだ。
「そして、おだいりさまに、おひなさま。かわいいわねぇ」
「ねえ、おだいりさまとおひなさま、けっこんしてるのー?」
ぼくの言葉に、おばあちゃんが「うふふ」と笑う。それにつられ、親戚のみんなも声を上げて笑う。
テーブルには、ひなあられをはじめ、たくさんのお菓子、そして人数分のお茶が並べられていた。
興味がなさそうにテレビを見ているおじいちゃん。
夢中になっておもちゃであそぶ、従姉妹の2人。
話に花を咲かせる、親戚たち。
ぼくはおばあちゃんと話しながら、不思議な気持ちになりながら雛人形を眺めていた。
3月が来るたび、おばあちゃんの家に雛人形が飾られ、親戚たちが集まる。
賑やかな、そして温かな時間だった。
小学校を卒業した3月。
中学校を卒業した3月。
みんな、歳を取っていく。
みんな、引っ越したり、結婚したり、亡くなったりして——。
賑やかだった親族の集いも、いつしか過去のものとなってしまった。
遠方で通っていた大学も卒業し、就職も決まり、数年働いてようやく社会人生活にも慣れた、3月3日。
母から鍵を預かり、久しぶりにおばあちゃんの家へ行った。
おじいちゃんも、おばあちゃんも、亡くなっていた。
ここにはもう誰も住んでいない。
賑やかだったおばあちゃんの家。
僕はそっと鍵を開ける。
おばあちゃんの家の匂いだ。
記憶が一気に、過去へと駆け抜ける。
雨戸が閉められた、暗い応接間。
僕は電灯を点けた。ジーと音を立てて灯る、蛍光灯。
段ボールが敷き詰められた部屋の端にある押入れを開くと、たくさんの箱が目に入った。
1つずつ蓋を開けると、埃をかぶったお内裏様、お雛様、三人官女、五人囃子……。
「ほら、ゆうくん。ことしもかざろっか」
おばあちゃんの声が、今にも聞こえてきそうで。
押入れを探ると、お雛様だけでなく、僕が子供の時に遊んでいたおもちゃなどが、大事にしまわれていた。
ああ、大事に残してくれてたんだなぁ。
厳しい社会に揉まれても、僕であることを思い出させてくれるため、だろうか。
段ボールだけが敷き詰められた部屋に、蛍光灯の「ジー」という音だけが響いていた。
【KAC2025】埃をかぶった おひなさま 戸田 猫丸 @nekonekoneko777
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