第5話

「あー、彼氏欲しい」





イケメンで優しくて、話も合って。


そんな人と付き合いたい。



理想が高いのは分かってるけど、どれも妥協できない。




ふらりと駅ビルに入ると街中の喧騒は薄れて、私の願望がかなりハッキリと聞こえてしまったらしく。


直人は、馬鹿にしてるのを隠しもせずに口元を歪めた。





「いらないよ絶対。そんなの」


「うるさいな、あんただっていたことないでしょ」


「あるよ」


「あるの!?」





一体なんなんだ、恋人ってやつは。


なんでこいつにできて、私にできないのか。


全くもって理解できない。



ビル内を軽快に流れる昭和のバレンタインソングとは対照的に、私の心は荒んでるみたいだ。


衝撃的な事実に悔しくなって、いつ、と更に睨みを効かせると、直人は記憶を遡るように視線を彷徨わせた。





「体育祭のあとだから、6月くらい?かな」


「入学して2ヶ月でできたの?意味分かんない、いつ別れたの」


「1ヶ月も持たなかったよ確か」


「早!まさかナオの分際で振ったの?」


「分際ってなんだよ。…まあ、そうだけど」





2ヶ月で惚れる相手も相手だけど、好きな人と付き合えたと思ったらすぐに別れを切り出されたなんて、考えるだけで胸が痛い。


それも直人なんかに。



どうして隠してたの、と見上げれば、

別に隠してなんかないよ、なんて言うものだから。


相手は誰だとか告白シチュエーションはとか初デートはどこ行ったのとか、根掘り葉堀り聞き出すことにした。

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