星の瞬く前の夜

ウタカ カヲル

プロローグ

第1話

私が経験した、不思議な話を聞いて欲しい。


そんな身構えなくていいよ。

一人でカフェに来て、他の席のおしゃべりが耳に入ってくるような感覚で聞いて欲しいな。


…突然だけど、私には大好きな叔父さんがいる。

父の弟にあたる叔父さんで、職業はパフォーマー…だと思う。

曖昧なのは、私が記憶している叔父さんの姿はいつも

小さな子どもたちの前で手品をしたり、パントマイムを繰り広げていたことだけ。

叔父さんのパフォーマンスに釘付けになる子どもたちのキラキラとした眼差しが私自身も叔父さんの活躍は幼い頃より見ていた分、とても誇らしげに感じていた。

叔父さんがパフォーマンス中に、

箱に入れたはずのウサギの『リンリン』が魔法の呪文を唱えると、リンリンが消えてしまった手品をみた子どもたちが声をあげ、不思議がる様子をみて

いたずらが大成功したいたずらっ子のような、ニッと屈託なく笑う笑顔が大好きだった。

パフォーマンスが終わった後、叔父さんにしつこく

「リンリンはどこにいったの??」

と、片付けをしている叔父さんにまとわりついて聞いたのもいい思い出だ。

  

…その叔父さんは、私が10歳の時、私の目の前で姿を消した。


紅葉が綺麗だったその日は休日で、私は友達と図書館の帰り、公園で叔父さんが赤く色づいた木の下のベンチに腰掛けて本を読んでいるのを見かけ、

『叔父さんだ!おじさーーーん!!』と、声をかけた。


本から顔を上げた叔父さんが一瞬驚くも優しく微笑んで手を挙げて応えてくれた。私は友達を連れて叔父さんの元へかけて行った。


いつもの公園には子どもが鬼ごっこしたり、砂場で砂遊びをしている親子、

トレーニングをしている高校生、おしゃべりをしている奥様方など、賑わっていた。

いつもの光景だったはずだったが、


突然、

キャーーー!

と甲高い女性の悲鳴と、

車の暴走音が聞こえてきた。


公園入り口からブレーキが利かなくなってしまったらしい自動車が、こちらに猛スピードで向かってくる。

公園にいた人々は逃げ惑い、その場はパニックになった。


このままでは私たちに向かってくる!私は目を閉じてしまった。

叔父さんは危険を感じ、私と友達を突き飛ばし、車の進行方向から除けさせた。

 車はスピードを緩めることなく、叔父さんに向かう。

「叔父さん!!!」

私が叫んだその刹那、

 ポフン!!という、まるでアニメで何かが軽く爆発を起こしたような音を立て、真っ白い水蒸気煙が立ち上る。


モワモワと深い霧のように視界を遮っていた煙りはやがて消えた。


猛スピードで走っていたはずの車がそこに停まっていた。ぶつかって大破したわけでもなく、まるで始めからそこに駐車されていたように無傷で停まっていた。しかし、車を運転していた男性は気絶をしていた。


車は無傷でも…叔父さんは…轢かれてしまったの?

車の異変に逃げ惑っていた人々は恐る恐る近寄ってきた。


しかし、車の進行方向にいたはずの叔父さんは跡形もなく消えていた。


車の下敷きになっているわけでもなく、どこかに弾き飛ばされた訳でもなく…。 

あの一瞬の隙に遠くまで逃げるのはまず不可能。第一、あの霧のような煙のような爆発はなんだったのか??


一緒に事の顛末をみていた友達も、

その場に居合わせた、公園にいた人々も目の前の光景に呆然としていた。

「叔父さん…叔父さんーー!」

叔父さんを探す私の声のみ、その場に響いた。


…あれから早、何年経つのだろう。叔父さんは発見されることなく、現在も行方不明。

父から父の弟である叔父さんは既に亡き者として考えろ、と言われたときは非常にショックを受けた。

大好きな叔父さんが、突然消えてしまった。

…そう。箱に入れられて消えてしまったリンリンのように…。

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